ビジネスホテルのプチヒット商品――「トレインビュー」とは杉山淳一の時事日想(1/4 ページ)

» 2012年11月23日 00時00分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。2008年より工学院大学情報学部情報デザイン学科非常勤講師。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP、誠Styleで「杉山淳一の +R Style」を連載している。


 1980年の漫才ブームのころ、こんなネタがあった。

 都会で働いている息子へ、故郷の母親から手紙が届く。

 「ついにこの村にも新幹線が通ったよ」

 「へー、すげえな、かあちゃん!」

 「でも駅はないよ」

 「(列車に)乗れねぇのかっ!」

 当時は「ださいたま」「チバラキ」など、東京近郊の田舎を揶揄(やゆ)するネタが多く、この話もその流れの1つだったように記憶している。私はこの話を面白いと思いつつ、地域と鉄道の関係の真理を突いていると思った。

 駅が近くにあると便利で嬉しい。しかし、線路そのものは喜ばれない施設である。列車が走れば騒音と振動が発生する。現在は規制が厳しく対策も施されているとはいえ、気になる人もいる。騒音や振動はないほうがいい。

ビジネスホテルの不人気部屋

 ビジネスホテルはこの「線路際不人気」に悩まされていた。旅館と違い、ビジネスホテルは駅に近いほうが人気がある。しかし、駅に近い建物は線路に近い建物でもある。ホテルは眠るところ。仕事の疲れを癒やすところでもあるから、静かなほうがいい。外が騒がしいと「眠れなかった」とクレームがくるからだ。

 だから線路際の部屋は不人気で、線路から離れた部屋がよい部屋だといえる。早めに予約したり、大手旅行代理店を通じて申し込むと「よい部屋」に当たりやすい。逆に繁忙期の飛び込み客などは線路際をあてがわれる。

 稼働率を上げるために線路側の部屋にも宿泊してほしいけど、お客さまにはオススメしにくい……。

 ビジネスホテル業界の間では、線路際の部屋はそういう位置付けになっている。私は鉄道が好きだから、むしろ線路際が嬉しい。しかし、たいていのホテルではつまらない景色の部屋を与えられる。でも、これはホテルにとっては「静かなひと時を」という気配りの結果である。

 だから、わざわざ「線路が見える部屋を」とお願いしてみる。良心的なホテルは「ご用意いたしますがリネン室の隣です。よろしいでしょうか?」などと言ってくれる。こんなやりとりで線路際の部屋の位置付けが分かって面白い。私としては、隣がリネン室なら、隣室の客に気を使う必要がなく、なおさらありがたい。

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