丸の内タニタ食堂を運営するきちりが目指すもの儲かっている企業にはワケがある(1/3 ページ)

» 2013年01月09日 08時00分 公開
[渡辺聡、佐々木靖人,Business Media 誠]

著者プロフィール:

渡辺聡(わたなべ・さとし)

 神戸大学法学部卒。NECソフトを経てインターネットビジネスの世界へ。2008年にクロサカタツヤ氏と共同で株式会社企(くわだて)を設立。現同社代表取締役。大手事業会社からインターネット企業までの事業戦略、経営の立て直し、テクノロジー課題の解決、マーケティング全般の見直しなどのコンサルティングサービスを提供している。現在、Business Media 誠で「ビジネスノベル新世紀」を連載中。主な著書・監修に『マーケティング2.0』『アルファブロガー』(ともに翔泳社)など。Twitter:@swmemo


佐々木靖人(ささき・やすと)

2006年、California State University,

Bakersfield卒業後、コンサルティング会社に入社。アナリストとして企業の戦略立案、効率化支援業務、財務アドバイザリー業務、資金調達支援業務などに従事。2009年、レオス・キャピタルワークス入社。中小型エリアを中心に幅広いセクターの企業調査を実施。特にITへの理解は深い。


 今回取り上げるのはレストランビジネスを展開している「きちり」。事業のプラットフォーム機能の作り込みに長けていること、お客さんへのサービスを重視していることが特徴です。

 まず、簡単に数字の動向を確認しておきましょう。同社は2007年7月6日にヘラクレス市場(現在は市場側の統廃合によりJASDAQ市場扱い)に上場した、上場企業としてはまだ若い会社となります。直近の売上利益動向を見ると、若干の凸凹はありつつも右肩上がりの成長を維持しています。

2012年6月の決算発表資料より

 また、上場前を含めての成長経緯は次のようになり、増収増益の状況を維持しています。

きちりの売上推移(単位:万円、同社開示資料より筆者作成)

 外食産業全体を見ると、1997年の29兆円をピークに漸減を続けており、市場の拡大に乗っての成長ではなく、同社の経営努力の結果生み出された成長であると言えます。

出典:食の安全・安心財団

 しかし、企業を分析している人や外食関係者以外で、同社の名前を聞いたことがないという人は多いでしょう。そこで、一般にも知られている案件を紹介すると、その筆頭に丸の内タニタ食堂の支援が挙げられるでしょう。

 累計で約500万部の大ヒットとなっている『体脂肪計タニタの社員食堂』シリーズ。その勢いを借りて企画された丸の内タニタ食堂ですが、もちろん健康機器メーカーのタニタにレストラン運営のノウハウはありません。そこで自社単独での運営は難しいと判断したタニタが、外部のパートナーとして指名したのがきちりというわけです。

丸の内タニタ食堂

 食事の提供に加えて、栄養管理士のアドバイスや健康機器の販売も行う丸の内タニタ食堂はタニタのいわばショールーム。顔となるプロジェクトであり、失敗するわけにいかないものです。衛生面や安全面での失敗を回避するのは当然として、店として十分なおもてなしができるか、テキパキとした店舗運営ができるかどうかがポイントとなってきます。きちりがパートナーに選ばれた理由は、同社のビジネスの仕組みや店舗運営アプローチが評価されたことにあります。

 まず、きちりのビジネスの特徴を挙げてみましょう。

(1)顧客サービスを重視している=フロントに人件費をかけている

 コンセプトは、おもてなしとホスピタリティ。単純なマニュアル展開はしていません。

(2)それほど高くない価格設定

 例えば、ぐるなびでKICHIRI関連の店舗の予算動向を見てみると、おおむね3500〜4500円となっています。日本フードサービス協会のデータによると、ディナーレストランの客単価は4286円なので、そう割高にはなっていません。

(3)食材には相応のこだわりを持っている

 同社サイトのコンセプトページでわざわざ食材についての説明ページを置いているように、出来合いのパッケージ品を店で温めて皿に並べるだけではないようです。

 ……しかし、良いものを出して、サービスを手厚くしつつ、お値段は手頃、ということは普通同時には満たせません。(1)のサービスと(3)の食事を大事にすれば、(2)の価格設定は相応に上がっていくのが世の常。この矛盾をどう仕組みとして解いているかが、タニタからの指名を得た秘密と言えるでしょう。それでは、具体的にどのような作りになっているのか確認しましょう。

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