秋元康に聞く、なぜ前田敦子さんがセンターだったの?AKB48の戦略!(1/2 ページ)

» 2013年02月21日 08時00分 公開
[秋元康, 田原総一朗,Business Media 誠]

AKB48の戦略!:

book 『AKB48の戦略! 秋元康の仕事術』(アスコム)

 この連載は書籍『AKB48の戦略! 秋元康の仕事術』(アスコム)から抜粋、再編集したものです。

 AKB48といえば、今や知らない人はいないほどのアイドルグループで、その人気は日本のみならず海外にも及ぶ。本書では、そんなAKB48の真実や魅力を余すところなく紹介するとともに、プロデューサーでもある秋元康の企画力や発想術などの“刺さる”ビジネスノウハウを徹底的に解明。AKB48のファンはもちろんのこと、ビジネスパーソンにこそ読んでほしい1冊です。


著者プロフィール:

秋元康(あきもと・やすし)

作詞家。1958年、東京都生まれ。美空ひばり「川の流れのように」をはじめ、ジェロ「海雪」(第41回日本作詞大賞受賞)、AKB48「フライングゲット」(第53回レコード大賞受賞)など、数々のヒット曲を生む。2012年、第54回日本レコード大賞“作詞賞”を受賞。

テレビ、映画、CM、漫画、ゲームなど、多岐にわたり活躍中。AKB48グループの総合プロデューサーを務めるなど、常に第一線で活躍するクリエイターとしても知られる。著書に小説『像の背中』(扶桑社)など多数。


田原総一朗(たはら・そういちろう)

 1934年、滋賀県生まれ。1960年、岩波映画製作所入社、1964年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。1977年にフリーに転身。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。1998年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。

現在、早稲田大学特命教授として、「大隈塾」塾頭も務める。『日本の戦争』(小学館)、『田原総一朗自選集(全5巻)』ケビン・メア著『田原総一朗責任編集 自滅するな日本』(アスコム)ほか著書など多数。


オーディションで落とすのは完成された女の子

田原:ここで、メンバーたちの話を聞きたい。センターを務めて今回卒業した前田敦子さんは、なんでセンターだったんですか。もっと歌や踊りのうまいかわいい子がいるのに、なぜ秋元さんは彼女に目をつけたんですか?

秋元:センターにいちばん向いてないな、と思ったからです。ファンはアイドルに「シンデレラ・ストーリー」を求めているんです。いじめられたり、ぼろを着て雑巾がけをさせられたりして不遇だった女の子が、お姫様として大成功する物語をね。

 AKBは、はじめはこんなにダメだったけど、やっと自分の応援でここまできた。それをファンは体験したい。だったら最初からすごい美人やお姫様ではダメじゃないですか。

 AKBのオーディションで、残念ながら僕がことごとく落としてしまうのは、完成された女の子たちなんです。

田原:はい、完成された子は落とす。

秋元:プロダクションをいくつも渡り歩くとか、そこそこ経験があるという子たちは、ことごとくどうなっていくか想像できてしまう。僕だけじゃなくてファンのみなさんが見ても、この子は器用だから自分がいなくても伸びていくだろうなと思える。それはつまらないからAKB48にはいらないというのが、僕のプロデュースです。

 それであるとき、何も分からない無垢な14歳の前田敦子に「君がAKB48のセンターで歌うんだよ」と言ったら、彼女は大声を上げて泣きながら「嫌だ」と言った。ほかの子たちはみんなセンターになりたいし、ソロ曲がほしいんです。僕のプロデュースで、その子がセンターに立つかソロ・デビューして“にんまり”しちゃうと、そこからはもうドラマが生まれないんです。だから前田敦子しかいない、というのがありました。

田原:だけどお客さんには、彼女が嫌だと大泣きしたことが分からないでしょう。

秋元:いやいや、ファンのみなさんは、その微妙なところをずっと見ていますよ。それこそが、たぶんAKB48がAKB48劇場で毎日公演することの意味なんです。

 毎日やっているからファンは、例えば「今日のあっちゃんはなんだか暗い。おかしいぞ。きっと何かあったはずだ」と気付く。それをブログで書いたり、なぜだという推測が掲示板で飛び交ったりする。1週間ほど経つと誰かが、どうやら彼女はレコーディングしたらしいとか、センターの話をもらったとき大泣きしたらしいという情報をつかむ。その話が広がって、みんなまたいろいろ妄想するんです。ファンのみなさんは、ステージと客席との境界線をなんとか越えようとします。ステージではダイレクトに明かされない情報に、ものすごく敏感ですね。

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