「Facebookを活用したから短期間にここまで成長したのですが、このプログラムの中でメンター(指導者)から、『Facebookだけではリスクが高いよ』という指摘を受けたんです。Facebookのルールに縛られてしまうためですね」(亀井氏)
実際、Facebookは企業のページ利用ルールをこれまでも繰り返し変更してきている。投稿する写真に制約を設けたり、懸賞も独自のレギュレーションに従わなければならず、将来にわたって同じように事業が展開できるという保証はない。Facebookバブルに沸いていた日本では気が付きにくい着眼点であったといえそうだ。
亀井氏らは3カ月間、米国のシリコンバレーに住み込んでこのプログラムに参加した。それまで勤めていた会社を退職し、体1つで渡米して家を借りるところからスタートしたというから驚きだ。
「英語なんて話せなくて大丈夫だからといわれて渡米したものの、賃貸契約書の束を見てもさっぱり内容が分からず、収入証明が必要と言われ日本のものを見せると『米国のものじゃないとダメ』といわれて、交渉しなければならなくなったり……もう散々でしたね」と亀井氏は笑う。
海外旅行は好きだが、会話は苦手。TOEICのようなテストも受けたことがないという亀井氏。「今はTokyo Otaku Modeの業務が忙しくて勉強できなくなってしまいましたが、以前はSkypeを使った英会話レッスンを2年間くらい受けていました。毎日夜30分、とにかく途切れないように、という感じで。あとは語彙力を上げるために「iKnow!」も使っていましたね」
「そのお陰で仕事の話――例えば『この商品は在庫はありますか?』とか、そういう話はできるようになったのですが、日常的なコミュニケーションを取るような会話がうまくこなせなくて、500 Startupsではすごく苦労しましたね」
海外のアニメファンは、日本の(多くの場合は無許諾配信されている)アニメを見て、「生きた」日本語を身に付ける人も多い。彼らと話すと、その場の雰囲気に応じた軽妙なコミュニケーションが取れることに驚かされるが、Tokyo Otaku Modeで彼らと向き合う亀井氏らは、そのような環境にはなかった。
共同創業者の1人である秋山卓哉氏も「実際、僕もほとんど英語を喋れないので、『海外向けのビジネスをしているのに』と驚かれてしまうこともあります。でも、いま亀井が話したようなツールを使って最低限のスキルの底上げをしたり、翻訳アプリなどのITサービスを使うことで何とかなる。だからこそここまで来られたわけです」と振り返る。
とはいえ、Tokyo Otaku Modeの事業の柱の1つは、英語による日本のポップカルチャーの紹介だ。会話であれば互いのその場での努力で何とかなる部分も大きいが、実はライティングは留学経験者でも「読ませる文章」を書けるようになるには、多大な修練を必要とする分野だ。一体どう解決したのだろうか――?
「答えは簡単です。ネットを通じて記事を書きたい人を募ったんです。現在は一定レベル以上の翻訳者を雇って運営していますが、創業当時はクラウドソーシングのサービスや、Tokyo Otaku ModeのFacebookページのファンに呼びかけたんですね。私たちが取材して書いた日本語の記事を、彼らに翻訳してもらったのです。日本のポップカルチャーが好きで、最新の情報をいち早く知ることができる。しかも、自分の名前で数多くの読者に記事を読んでもらうことができる、ということで『タダでもやりたい』という人がたくさん手を上げてくれました」(秋山氏)
依存することによるリスクもあるFacebookだが、ページに集うファンは読者であると同時に、Tokyo Otaku Modeを発展させる仲間でもあり、原動力であったのだ。言葉の問題は、こうやって克服していったTokyo Otaku Mode。しかし、代理店でSNSを利用した企業プロモーションの企画提案を行っていた亀井氏にはFacebookや独自のEコマースサイトを開発する技術力そのものはない。
「実は2年くらい前までは、コーディングという工程があることすら意識してなくて、ボタンをポチッと押せばソースコードが出来上がるものだと思ってたくらいです(笑)」(亀井氏)
そこで亀井氏らは、代理店時代に付き合いのあった技術者の協力を仰いで、サービスを構築していった。趣旨に賛同して集まったメンバーだが、起業して一緒に仕事をするためには、タダでというわけにはいかない。Facebookページという比較的技術難度が低いところからスタートし、500 Startupsでの資金調達と助言を得て、独自サイトを立ち上げ、事業を拡大していくというステップアップが、これまでところ上手く行っている様子が見てとれる。
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