Q. ネットで弔意を伝えたいんだけど……古田雄介の死とインターネット 一問一答

» 2013年10月29日 07時00分 公開
[古田雄介,Business Media 誠]

古田雄介のプロフィール:

1977年生まれ。建設業界と葬祭業界を経て2002年にライターへ転職し、テクニカル系の記事執筆と死の周辺の実情調査を進める。ネット上の死の現状をまとめたルポ『死んでからも残り続ける「生の痕跡」』(新潮45eBooklet)を各種電子書籍サイトで販売中。ブログは「古田雄介のブログ」。


A. 無難なのは「お悔やみ申し上げます」、より刺さるのは自分の言葉

R.I.P.

 ネット上で知人の訃報に触れたとき、コメント欄などで弔意を伝えることは悪いことではない。しかし、闇雲に書き込むと、言葉の選択を間違えて誤解を与えてしまったり、伝えたい相手に言葉が届けられなかったり、あるいは、知識をひけらかしたい狭量な人の餌食になったりすることがある。余計なトラブルを避けるなら、場にあわせた気遣いが必要だ。

 第一に気にすべきは弔意を伝える相手だ。死後の世界の論議は置くとして、現世で弔意を受け取る相手は故人の家族だったり、悲しみを共有したい友人全般だったりするはずだ。メールやダイレクトメッセージなら、遺族に個室で弔意を伝えるのに近い。家族が訃報を代筆したブログやSNSなら、故人の知り合いが見ているなかで遺族に伝えるのと似た状況といえる。ネット上の知り合い経由や報道などで訃報を知った場合は、遺族に伝わることを念頭に置きながらも、基本的には仲間内で哀しみを共有しあう流れになる。場によって出てくる言葉も違ってくるはずだ。

 伝えるメインの相手を想定したうえでよくある言い回しを振り返ると、それぞれの適所がクリアになる。

ネットでよく見る弔意を伝える言い回し
種類 言い回し 説明
故人に捧げる R.I.P. rest in peace(安らかに眠れ)の略記。キリスト教圏では、墓石に刻まれるなど伝統的に使われる表現だが、日本では宗教の区別なくネット上で哀悼を捧げる意図で使われることが多い。
故人に捧げる ご冥福をお祈りします。 直訳的には「死後の世界での幸せを祈ります」といったニュアンス。広く使われているが、死後の世界の存在を否定する宗教観などから抵抗感を持つ人も一定数いる。
遺族を気遣う ご愁傷様です。 遺族に向かって「大切な人を亡くして気の毒に思います」という意味。これも死生観や文化の違いで抵抗を持つ人もいる。また、普段はシニカルに使われることも多いため誤解を受けやすい。
自分の気持ちを表す お悔やみ申し上げます。 「あの人の死を悼みます」と伝える言葉。自分の気持ちが主体だが、「申し上げる」という謙譲表現から、へりくだりながら弔意を伝えるというニュアンスも強い。
自分の気持ちを表す 哀悼の意を表します。 「あの人の死を悼みます」と伝える言葉で、「お悔やみ申し上げます」とほぼ同じ意味合い。「哀悼の意を捧げます」「深く哀悼いたします」などの表現も。
自分の気持ちを表す 合掌 仏教を由来とする礼拝行為。行為も言葉も広く使われる。ネットでは哀悼の意を伝える意図を込めて「R.I.P.」と似たニュアンスで書き込む例がみられる。

 無難なのは、「自分の気持ちを表す」タイプの表現だ。故人に捧げたり遺族を気遣ったりするのは、宗教観や死生観の違いがつっこみどころにみられる危険がある。また、ネット上でも遺族が管理しているようなかしこまった場なら、ネットスラングに近い「R.I.P.」や「合掌」は避けたほうがいいかもしれない。ただしこれらの単語は、薄い付き合いながらそっと弔意を伝えたい場合、長めの文章で文字汚しになるのを避けられるといったメリットもある。

 いっぽう、故人と深い付き合いがあるなら、定型文にこだわらずに、自分の言葉で故人とのエピソードを語ったり、自分なりの哀悼を伝えたほうが遺族にも他の読者にも感謝されることが多い。「a」ではなく「the」の弔意を伝えるなら、自分の言葉以外の選択肢はない。

※注:将来は弔電のメール版のようなサービスが一般化するかも

 現状、ネットで弔意を伝えることは非公式な場合が多いが、今後は弔電と似た役割を果たすサービスが普及する可能性がある。

 エリアサポートサービスが2013年8月にリリースした「ネットで弔問」は、実際の葬儀と連動して式中の2日間だけネット上で弔問を受け付けるサービスだ。さまざまな事情から通夜や告別式に参列できない人もPCやスマホからネット上の会場にアクセスして、無料で最大100文字の弔問メッセージを書いたり、有料で線香などの供物を注文したりできる。届いたメッセージや供物は後日まとめて喪主に送られる仕組みで、弔電のほどの速報性はないものの、自分のペースで推敲した文章が送れるうえ、弔意を示す選択肢が広いというメリットがある。

 なお、葬儀社経由で提供するサービスとなるため、利用するには喪主が葬儀社に問い合わせ、葬儀社がそれを受け付けるという段階を経る必要がある。弔問する立場からすると、まだ頻繁に利用できる状況にはなっていない。

 同社代表の馬場章夫氏は、「なるべく身内だけで済ませる家族葬が普及している一方で、喪主の職場の人たちや町内会の人たちなど、弔意を伝えたいけれど式に参列できないという声も増えています。そうした人たちの気持ちに応えられるサービスを考えて『ネットで弔問』を始めました。遺族は、家族葬スタイルで式ができて、なおかつ、周囲の人たちの弔意も受け付けられます。遠方に暮らす親戚の方にもネットから式に参加してもらうこともできますし、これからの葬儀のスタイルに柔軟性を持たせられるのではと考えています」と語る。

 ネットとつながる弔意の場は今後ますます広がっていく可能性が高い。その弔意が半永久的に残る場合も少なくないだろう。今のうちに、意図通りに弔意を伝える大切さを考えてみるのもいいかもしれない。

ネットで弔問ネットで弔問ネットで弔問 「ネットで弔問」の画面。トップページから該当の式ページに進んで、自分の名前やメールアドレス、メッセージなどを記入する。「お線香を添える」や「お供物を添える」ボタンから、贈り物を注文することもできる

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