なぜコンビニのクリスマスケーキは売れるようになったのか――知られざる裏事情新連載・ご一緒に“おでん”いかがですか(4/5 ページ)

» 2013年12月19日 08時00分 公開
[川乃もりや,Business Media 誠]

競合店の様子を見に行った

 クリスマスケーキが急激に売れてから数年後、筆者は競合店の様子を冷静に見ることができるようになった。

 「あれ? こいつら本当に100個も売っているのかな?」――そんな疑問が湧いてきた。というのも「クリスマスケーキを100個売る」となると、お客さまへの手渡し作業が大変なのだ。

 クリスマスケーキが売れるのは12月24日。お客さまの約9割が「24日を希望」され、ほとんどの人がその日の12時から18時の間に来店される。例えば100個の予約が入っていたとすると、80個ほどがその6時間の間に手渡される。1時間に13個強だ。

 ということは、午後の時間帯に競合チェーンを偵察すれば、お客さまに手渡しているシーンを見ることができる。しかし、である。見ることができないのである。何店か周ってみたが、手渡しシーンを見ることができないのだ。同僚に「見たことある?」と聞いたところ「あれ? そう言われれば……」といった返事。上司にも聞いたところ「情報の出所は分からない。会議で聞いただけだ」とのこと。

 勘の良い読者は、もうお気づきだろう。「競合チェーンのお店では、クリスマスケーキを100個も売っている」という情報は“ガセ”だったのだ。これは憶測だが、競合チェーンでも同じような“ガセ”が流れていたのではないだろうか。

 最初はガセだったかもしれないが、どこかの店で実績を残せば、それは“ガセ”ではなくなる。実績という事実が積み重なっていく中で、「オレも、オレも」といった感じで追従するお店が出てきたのだ。こうしてかつてのクリスマスケーキは“お荷物商品”だったのに、今では主力商品に様変わりしたのだ。

 クリスマスケーキと同じように、恵方巻きも売れていった。「競合チェーンでは数百本売っている!」という怪しい情報に、オーナーたちが信じられない反応を示したのだ。

 「節分には恵方巻き」という風習は、いつ・どこで・誰が・なぜ・どのように始めたのか。筆者は今年45歳になったが、子供のころに「恵方巻き」なんて影も形もなかった(関東在住)。詳しく調べると恵方巻きのルーツは分かるかもしれないが、ここまで広まったのは「競合チェーンでは『恵方巻き』が売れているぞ!」という“ガセ”が始まりかもしれない。

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