「みんなの家」で展開される“女神的”外交女神的リーダーシップ(3/4 ページ)

» 2014年01月14日 08時00分 公開
[ジョン・ガーズマ、マイケル・ダントニオ,Business Media 誠]

王女様が王子様を助けにきたっていい

 国民が高次の欲求を持つようになったのは、スウェーデンが資本主義国と福祉先進国という2つの顔を持ち、世界でも指折りの高い生活水準を達成したからである。EU(欧州連合)の加盟国でありながらユーロは導入しておらず、2008年に起きた金融危機の火の粉を逃れた。所得格差の指標であるジニ係数は世界で最も低く、健康、福祉、教育、治安などの水準では常に最上位の一角を占める。それだけに税率は高いが、イノベーションや勤勉が報われる社会でもある。全国民に一定以上の社会福祉が保障される一方、自助努力の道も開かれているのだ。

 このような環境のもと、幼児教育を含むあらゆる分野で試行錯誤を奨励している。わたしたちはジヴへの取材を終えた後、エガリア幼稚園を訪れた。ここでは350人の幼児に対して76人もの先生がいて、意識的に男女分け隔てなく接している。おもちゃ箱にはロボットと人形が混じり、ままごとキッチンはピンクやラベンダー色ではなく、赤、緑、青といった原色で塗られている。「〜くん」「〜ちゃん」などといった性別による呼び分けは行わず、いじめられた子どもは男女どちらも同じようにいたわる。

 エガリア幼稚園は2010年の開園時、部外者から「女性寄りのステレオタイプな性別観を持つのではないか」という批判的な見方をされた。だが、スタッフはむしろ機会均等に強く配慮していた。園児全員におもちゃ、服装、遊び、趣味などを、「男の子らしいか」「女の子らしいか」といった心配をせず思いのままに選んでもらおう、と決めていた。世間の常識に合わせるのではなく、枠にはまらない自由な選択を重視したのだ。

 エガリアのような幼稚園は世界中探してもほかにないだろう。わたしたちが訪れた日は、廊下を園児たちが走り回り、教室からは歌声が響いていた。どこかで誰かがむずかる声も漏れてきた。設立者のロッタ・ラジャリンとアンデシュ・ベングソンは、教室の小さな椅子に心地よさそうに座り、取材に応じてくれた。2人は若いころを振り返り、園児たちにできるかぎり好きなように振る舞わせているつもりだったと語った。しかし、自分たちの仕事ぶりについてじっくり考えたところ、知らず知らずのうちに「男の子らしさ」「女の子らしさ」という先入観にとらわれていたことに気付いたのだという。

 ラジャリンは「園児と接するときの自分たちの様子を撮影して、観察しました」と話す。撮影した映像を見ると、女児と男児の扱いにとても大きな違いがあった。「女の子にはたくさん話しかけていろいろな説明をしていました。使う表現も、感情面に訴えかけるものが多かったのです。ところが、男の子には『やめなさい!』『あっちへ行って!』『あそこに座って!』『これが終わったら、次はあれをする番!』といった単刀直入な言い方をしていました」

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.