赤ちゃんポストに預けられた子供が「ポスト」と名乗るドラマの何が問題なのか?窪田順生の時事日想(2/3 ページ)

» 2014年01月21日 08時00分 公開
[窪田順生,Business Media 誠]

子ども社会の伝播力

 肯定派は、22時からの放映だから施設の子どもが視聴することはないし、低学年の子どもの目にも触れないというが、子ども社会の伝播力を甘くみてはいけない。学年の中でひとりでも子役たちがいびり倒されているドラマを目にした者がいれば、「悲惨な施設」のイメージは尾ひれがついてあっという間に広がる。そこから始まる偏見、あるいはイジメのようなものを坂本さんは恐れている。

 いや、それこそ過保護すぎるんじゃないのと思う方もいるかもしれない。子どもだって、無菌状態ではなくさまざまな“毒”に触れて強くなるんじゃないの、と。傷つきボロボロになった子どもにまで、その“毒”を強いるべきなのかという問題もある。

 施設に送られてくる子どもの多くは、虐待の経験がある。2008年の「児童養護施設入所児童等調査」によれば、養護施設に入所する児童の53.4%が虐待の経験がある。全国の施設を訪れ、子どもたちと直に接している坂本さんによれば、7割以上が心になにかしらの傷を負っているともいう。

被虐待経験の有無及び虐待の種類(出典:厚生労働省)

 実は坂本さんも虐待を受けた過去がある。その実体験から、心に傷を負った子どもに必要なのは、「大人の理屈」を押し付けることではなく、「子どもの目線」で接することだと訴えている。そのあたりのことは、『運命をはねかえす言葉』(講談社α新書)という著作の中に詳しく書いてあるので、興味のある方はぜひ読んでいただきたい。

 『明日、ママがいない』の宣伝文句は「21世紀で一番泣けるドラマ」だという。視聴者の涙腺を刺激するには、いたいけな子どもをいびり倒す過激描写がマストなのもしょうがない。「ポスト」というあだ名も、産みの親を見切ってたくましく生きていく芦田愛菜ちゃん演じる主人公のキャラ、物語的にもなにか意味があるのだろう。

 ただ、もうちょっと配慮があってもいいのではないか。テレビは単なる「表現者」ではなく、国家から許認可を受け独占的に事業を行う“公共メディア”だからだ。坂本さんも言う。

 「ドラマが現実と違うというのはよく分かります。ただ、いくら現実でないとはいえ、心に傷を負った子どもに対して、追い打ちをかけることがないよう配慮はしていただきたいですね。やはりテレビというのは社会の公器じゃないですか」

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