ガムでむし歯が治るってホント?――江崎グリコ 健康科学研究所訪問記一回2粒、20分かんでください(1/6 ページ)

» 2014年03月26日 08時00分 公開
[吉岡綾乃,Business Media 誠]

 大阪からJRで1駅。塚本駅を降りてにぎやかな駅前の飲食店街を抜けて15分くらい歩いて行くと、突然、市営住宅が並ぶ下町っぽい住宅地にココアのような甘い香りが漂ってくる。見上げると白地に赤い文字で「おいしさと健康」の看板の建物がある。

大阪にある江崎グリコ本社

 ここ、江崎グリコ本社の敷地の中にあるのが、江崎グリコ健康科学研究所だ。健康科学研究所では40名くらいのスタッフが、さまざまな研究をしている。

 最近グリコから出ている、オーラルケアや化粧品、スポーツドリンク、試薬……といった一見お菓子と関係なさそうな製品群は実はここの研究所の研究のたまものなのだそう。特に筆者が興味を持ったのが、「初期むし歯が治る」という特保ガムの「POs-Ca(ポスカ)」だ。

 というわけで今回はグリコ健康科学研究所にお邪魔し、所長の栗木隆氏と、同研究所マネージャーの釜阪寛氏に話を聞いた。聞き手はBusiness Media 誠の吉岡綾乃。

グリコ健康科学研究所内部
グリコ健康科学研究所 所長の栗木隆氏(右)とマネージャーの釜阪寛氏(左)

そもそも「グリコ(ーゲン)」って何ですか?

1922年(大正11年)当時の「栄養菓子グリコ」(上)と、現在の「アソビグリコ」(下)

――社名にもなっている「グリコ」は、「グリコーゲン」からとったと聞きました。そもそもなんですけど、グリコーゲンって何なのでしょうか?

栗木: ハマグリやカキのお吸い物って、きれいな乳白色に濁っていますよね。あれはグリコーゲンが溶けている色なんです。お菓子のグリコの中には、カキから抽出したグリコーゲンが入っています。

――カキ……そういえば、グリコの創業エピソードもカキの話ですよね。創業者の江崎利一さんが、漁師が捨てていたカキのむき身の煮汁を、病気(チフス)の息子に飲ませたら元気になった。カキの煮汁にはグリコーゲンがたくさん含まれている。そこでキャラメルにグリコーゲンを入れて『栄養菓子グリコ』が誕生した、と。大正初期の話と聞いていますが、平成の今でも、お菓子のグリコにはカキから取ったグリコーゲンが入っているんですか?

栗木: そう、今のグリコにも、カキから取ったグリコーゲンが入っているんです。

――グリコーゲンって、カキとかハマグリとか、貝に入っているものなんですか?

栗木: いえ、生体のいろいろなところにあります。人間だと、例えば肝臓などにグリコーゲンを蓄えています。筋肉内にもありますし。人間のエネルギー源はブドウ糖ですよね? ブドウ糖というのは非常に小さい分子なのですが、グリコーゲンは、そのブドウ糖が2種類の結合でつながって、丸く大きくなったものなんですよ。

 人間の体は、体内のブドウ糖をグリコーゲンにしてためておくんです。エネルギーが必要な時にはブドウ糖にして使う。つまり、グリコーゲンはエネルギーの源なんです。

――なるほど、普段はグリコーゲンの形で人体の中に存在するけれど、人間の体がパワーが必要、力を出さなくちゃ……というときは、大きなグリコーゲンを小さなブドウ糖に細かく分解して使うのですね。

栗木: そういうことです。エネルギーが必要なときには、グリコーゲンをブドウ糖にして使います。つまり、グリコーゲンというのはエネルギーの源なのですね。

 グリコーゲンについては、謎が多かったのです。免疫学というのは1880年代にできた学問ですが、1900年代初頭に、免疫学でグリコーゲンが注目されたことがありました。日本だと大正時代、ちょうど江崎グリコの創業のころだったんですね。当時、「グリコーゲンは免疫に効く」といわれ、日本でも薬として売られていたのです。

 ただその後、グリコーゲンは免疫学の世界で忘れられていきます。免疫に効くのかと言われていたけれど、あるときは効くがあるときは効かない。ハッキリしない、データの再現性がない、学術界では長い間そう言われ、やがてグリコーゲンは忘れられていきました。

 そんなグリコーゲンが再び注目されたのが、1946年、チェコのコリ夫妻がグリコーゲンを試験管の中で作ることに成功した時のことでした。この研究はノーベル賞を取っています。

――それまでは人間が作れなかった……つまり、どこかから取ってきていたということですか?

栗木: そう、それまでグリコーゲンは、カキなど天然物から抽出するしかなかったんです。

 さっき、グリコーゲンが免疫に効くのかどうか分からないと言われた、という話をしましたが、専門家はこう言ったのです。「グリコーゲンに免疫機能があるのではなく、取り出すときに他のものが混じっていたり、抽出するときに(分子の)大きさや形が変わってしまったからではないのか。だから免疫に効いたり効かなかったりするんじゃないか。きっとそうだろう」と。長い間そう信じられていたんです。

――でも、試験管で作れたということになれば、話が変わってきますね。

栗木: はい。コリ夫妻が試験管でグリコーゲンを作れたということを踏まえて、私たちは「グリコーゲンを、酵素で作ろう」と考えたのです。そういうわけで、2000年頃から江崎グリコ生物化学研究所では、微生物で酵素を作り、その酵素反応でグリコーゲンを作ろう、という取り組みが始まりました。

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