企業の新陳代謝が上手くいかなくなった原因は、いくつか考えられます。定年の年齢が引き上げられたのも、そのひとつかもしれません。以前は55歳が定年でした。18歳から働き始め、55歳で退職する。今となっては、まったく想像できませんが、当時(1980年代前半までくらいでしょうか)は当たり前の光景でした。毎年大量の新入社員が入ってくる代わりに、一定数の退職者が花束を受け取って送り出される。さらに、企業の業績も右肩上がりの時代ですから、組織そのものが拡大して、部署の数も役職者のポストも増える。新陳代謝もスムーズに行えていた時代です。
しかし、定年が60歳、そして65歳へと引き上げられると、組織から出ていく人は減り、業績が右肩下がりになっていくと、組織も縮小。役職定年制度などで、ポストの整理をするも、それ以上に役職者たちは残ってしまい、若い人たちに与えるポストが見当たらず、新入社員を採用する人数も制限しないと、組織が維持できなくなってしまっているのが、今の状態。
そう、企業の組織の新陳代謝が、まったくできないようになってしまった。皆さんの周囲の組織でも、心当たりがあるという人は少なくないでしょう。これは現代の日本企業では、ごくありふれた光景なのです。
こういう話をしていると、必ず出てくるのが「年齢と能力は関係ないだろう」という意見。年齢によって切り捨ててしまうことは、合理的ではない。経験によってしか得られない能力もあるし、一定の年齢が必要なポジションは存在するのだから、一定の年齢が来た、だから組織から押し出すというのは、不合理きわまりない、と。
確かにその通りだと思います。しかし、裏を返せば「若年層であっても、能力が高ければ相応の待遇をし、ポジションを与えるべき」ということにもなります。しかし、この意見は受け入れてもらえない。
毎年、この時期になると、ベンチャーを中心とした新興企業の役職者たちなどは、メディアなどを通して「年齢や役職で仕事ができる時代は終わった」のだから「あなたたち、若い世代はもっと自由に発想し、ユニーク(=この場合もやはり、面白いというよりも個性的といった意でしょうか)な仕事をするべきだ」と情報発信し続けます。しかし、現実は程遠い企業も多い。
現状ではスリムで、新陳代謝などまったく問題ないといった風情だった新興企業も、いつの間にか組織が肥大化して、その大きくなるプロセスの中に、上手く新陳代謝ができなくなる原因を抱え込んでしまうケースも、枚挙に暇がありません。いま大丈夫だからと、安心などできないのです。
新しい連載では、企業という「組織が抱える問題」にフォーカスをすることで、企業の役職者たちには「新しい気づき」を、企業で働く人たちには「キャリアの未来予想図を考えるヒント」を、提供できればいいなと思っています。どうぞお付き合いください。
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