線路はつながっていても――京葉線とりんかい線の直通運転はなぜ難しい?杉山淳一の時事日想(3/4 ページ)

» 2014年05月16日 08時00分 公開
[杉山淳一Business Media 誠]

りんかい線だとどうなるか

新宿─海浜幕張間 りんかい線経由 全区間JR東日本
運賃(IC乗車券) 943円(差額:306円) 637円
所要時間 どちらも約1時間
利便性 ○(乗換なし) ×(乗換ホームが遠い)

 では、りんかい線で計算してみよう。新宿駅と、幕張メッセ最寄りの海浜幕張駅で、りんかい線経由は943円。全区間をJR東日本経由にすると637円。東西線の例とは異なり、全区間をJR東日本経由にしたほうが安い。これはりんかい線が建設費を返済するために、割増運賃を採用しているからだ。

 所要時間を比較すると、りんかい線経由とJR東日本の東京駅経由はどちらも約1時間で、ほとんど同じである。直通運転で乗り換えなし、という意味ではりんかい線経由のほうが便利だ。なにしろ東京駅の京葉線ホームは遠い。乗り換えでかなり歩かされる。

 りんかい線の直通運転が実現した場合の運賃設定はどうすべきだろうか。確かにこれは悩ましい。全区間をJR東日本料金にすると、東京臨海高速鉄道の取り分はない。東京メトロにとって東西線は営業路線の一部だけど、りんかい線は東京臨海高速鉄道ただ一つの営業路線だ。全区間をタダ乗りされては困る。では、乗り換えが楽で現実的な運賃の高いほうにそろえるか。これはJR東日本もりんかい線も異存なかろう。

 しかし、所要時間が変わらないとなると、実際にJR東日本だけを利用する乗客も割高になる。例えば東京駅から乗って海浜幕張駅で降りる客も、自動計算で遠回りのりんかい線経由の料金になる。これは納得できない。りんかい線と京葉線の直通運転を実現させるためには、特別な運賃計算規則が必要になる。乗り換え改札を通らないICカード乗車券向けに、りんかい線経由の運賃を徴収するための規則だ。


経由地を判別する機能が必要か

 どうしてもりんかい線の料金を徴収するなら、りんかい線に乗ったお客さんだけ、りんかい線経由と判断する仕組みが必要だ。ICカード乗車券には経由駅を登録する機能はある。東西線ルートの場合、西船橋駅に連絡改札があり、そこでIC乗車券をタッチすれば東西線経由と認識される。直通列車には連絡改札がないから特殊規則になるわけだ。

 では、電車に連絡改札と同様の機能を持たせたらどうか。りんかい線内を走行中の電車内に連絡改札のようなタッチ機器を置く。でも、料金が高くなると知ってわざわざタッチする乗客は少ないかもしれない。それでは、改札口よりもっと強い電波を発し、乗客のIC乗車券に認識させる。しかしこれは技術的に無理だ。別の規格でできるとしても全車両に装備となれば費用はかさむ。

 あるいは、東京駅と蘇我駅に乗り換え改札機を設置する。ここでIC乗車券をタッチすることで、「りんかい線に乗らなかった証明」を実施する。京葉線には武蔵野線からの直通列車がある。だから武蔵野線と他のJR東日本が乗り換え可能な、府中本町駅・武蔵浦和駅・南浦和駅・新松戸駅・西船橋駅でも乗り換え改札機が必要になる。乗り換え改札機の設置費と運用費を千葉県が負担する。これならJR東日本、東京臨海高速鉄道ともに交渉のテーブルに着いてくれそうだ。ただし、コストはかかるし、りんかい線とは関係ない利用者に多少の不便をかけてしまう。今後、直通運転が増えたら、と思うと、やはり難しそうだ。

 例えば、八王子発大宮行きの直通普通列車「むさしの」に乗り、武蔵野線内のホームで京葉線直通列車に乗り換える場合や、大宮発武蔵野線経由海浜幕張行きの直通普通列車「しもうさ」に乗った場合だ。京葉線と武蔵野線に連絡改札を設置しても、これらの列車の利用者はすり抜けてしまう。

 JR東日本は武蔵野線や京葉線を含む環状ルートを「東京メガループ」としてサービス向上に取り組んでいる。JR東日本の路線網を活用して、さまざまな直通列車を設定したい。しかし、「りんかい線経由運賃」「乗り換え改札で除外」という方式にすると直通列車利用者に向けて何らかの対策が必要になる。列車設定の自由度が失われる方策をJR東日本が採用する道理はなかろう。

 電車による判定案、乗り換え改札案、どちらも難しい。

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