20〜30代の人に伝えたいことは? SBIホールディングスの北尾社長が語る働くこと、生きること(後編)(1/3 ページ)

» 2014年05月23日 08時00分 公開
[印南敦史,Business Media 誠]

働くこと、生きること:

 終身雇用が崩壊し、安定した生活を求め公務員、専業主婦を目指す人が一定数いる一方、東日本大震災などを経て、働き方や仕事に対する考えを大きく変えた人は多く、実際に働き方を変えた人も増えている。仕事一辺倒から、家族とのかかわり方を見直す人も多くなっている。

 さまざまな職場環境に生きる人々を、多数のインタビュー経験を持つ印南敦史が独自の視点からインタビュー。仕事と家族を中心としたそれぞれの言葉のなかから、働くとは、生きるとは何かを、働くことの価値、そして生きる意味を見出す。

 この連載『働くこと、生きること』は、2014年にあさ出版より書籍化を予定しています。


北尾吉孝氏

 1951年、兵庫県生まれ。74年、慶應義塾大学経済学部卒業。同年、野村證券入社。78年、英国ケンブリッジ大学経済学部卒業。89年、ワッサースタイン・ペレラ・インターナショナル社(ロンドン)常務取締役。91年、野村企業情報取締役。92年、野村證券事業法人三部長。95年、孫正義氏の招へいによりソフトバンク入社、常務取締役に就任。現在は、証券・銀行・保険などのインターネット金融サービス事業や新産業育成に向けた投資事業、バイオ関連事業など幅広く展開している金融を中心とした総合企業グループのSBIホールディングス代表取締役執行役員社長。公益財団法人SBI子ども希望財団理事及びSBI大学院大学の学長も務める。


SBIホールディングスの北尾吉孝社長

 前編では、北尾吉孝さんに大きな影響を与えた父親の言葉や長年勤めた野村證券での出来事、SBIホールディングス立ち上げなどのお話を聞いた。

 次に「働く上で大切なこと」を聞いてみた。

 北尾さんは2010年の著書『起業の教科書 次世代リーダーに求められる資質とスキル』(東洋経済)に、「会社の成長は経営者の器にかかっていて、それを形成する根源的な要素として倫理的価値観が挙げられる」と記している。

 「会社に限定しなくても、あらゆる組織の構成員はすべて人間です。その人間を誰かが引っぱっていくわけです。中国古典の『文章軌範』という本の中に『一国は一人を以て興り、一人を以て亡ぶ』という言葉があるように、トップに立つ人間の影響力はすごく大きいのです。しかし同時に、ひとりだけではなにもできない。そこで必要なのは、人を集める人間的魅力なんです。だから『器』とは言い換えれば度量であり器量であり、人間的魅力だと思います。その魅力に対していろんな人が集まってくる。

 『論語』に『徳は孤ならず、必ず隣あり』という言葉がありますが、徳性の高い人は孤立することがなく、その人の周りには同じように特性の高い人が集まってきます。トップの人間を支える人が集まってくるかどうか、それを決めるのが人間的魅力なのです。そして人間的魅力の中で一番大事なことは、倫理的価値観です。ドイツの社会学者・経済学者のマックス・ヴェーバーが言うように、資本主義を謳歌(おうか)させ、発展させ、今日まで繁栄させているのはピューリタン精神。つまり『正直・勤勉』です。そういう倫理的価値観こそが資本主義を発展させてきたんです」

 しかし近年の日本においては、その部分が失われつつあるようにも思える。

 「日本では昔から、道徳は『もっとも大事な、人間が学ぶべきもの』として教えられてきました。しかし戦後、日本人の精神的な強さの根幹にあった道徳教育がなくなってしまいました。だから僕は、日本人の世界に誇るべき精神文化を伝えたいということで、原点回帰という意味合いを込め、『出光佐三の 日本人にかえれ』(あさ出版)という本を書きました。

 出光興産の創業者である出光佐三さんの、『自分は日本人として、日本人がやるべきことを日本人なりのやりかたでやってきたに過ぎない』という考え方を通じ、日本人が忘れているもの、日本人の遺伝子として心に残っているものを現代の若い人たちの中にもう一度開花させたいと思ったわけです」

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