英国と米国が現在直面しているこうした問題は、日本にもやがて訪れる。量的緩和を段階的に縮小し、金利の引き上げに動くならば同じことが起こる。そのタイミングがいつになるかは分からないが、黒田日銀総裁が掲げた「2年で物価上昇率2%」という目標のメドが立ったときなのだろう。
問題は、物価上昇率が安定的に2%になりそうだというときに、国債の流通利回りが現在のような低水準で収まっているかである。本来、物価が上昇すれば長期金利も上昇するはずだ。もちろんある程度のタイムラグはあるにしても、物価上昇率を大幅に下回るような長期金利で、国債を買う投資家がいるとは思えない。
もし国債利回りが上昇したら、すなわち国債相場が下がれば、銀行をはじめ金融機関が保有する国債に評価損が発生する。それを警戒して、メガバンクは手持ちの国債を残存期間の短いものに入れ替えてきた。残存期間が短ければ評価損も少なくなるからだ。ある金融機関関係者によれば、メガバンクがそうした操作をできるのは、ほかに稼ぐ手段があるからだという。
一方、国債で運用するぐらいしか稼ぐ手段がない地銀などは、リスクを承知で残存期間が長い国債を保有している。国債利回りが1%上昇すれば、地銀の評価損は計算上3兆円ぐらいに達するという。そうなれば、地銀は融資を絞らざるを得ず、地域の中小企業は大打撃を受けるだろう。もちろんそうならない可能性もあるが、それでも量的緩和という“異常事態”からどうやって脱却し、正常な金利水準に戻るのかという問題は、まだどこの国も解決できていないのだ。
なにせカネの価値が中央銀行の信用だけで支えられているような時代で、大きなバブルが発生し、その後始末で苦労するような時代は、人類史上初めてのことだ。一昔前のように金利の上げ下げで景気を調整することが正常なのか、という根本的な問題もまだ残っている。その意味では、こうした時代における正常な金融の姿を、われわれ自身が描き切れていないのではないか、という疑問をぬぐい去ることはできない。
実際、2008年9月15日のリーマンショックのときでも、その影響の大きさを認識していた中央銀行マンは世界にほとんどいなかった。皆、事態の進展の速さに驚き、あわてて対処療法に走るしかなかったのである。
何とか世界経済の“メルトダウン”は防いだものの、その後遺症は予想以上に深刻で、もうすぐ6年になるというのに、いまだに先進国には、金融緩和で生まれた「イージーマネー」があふれている状況だ。これをどう解消するのか、その道筋を米国のFRBや英国のイングランド銀行は指し示せるのか――FRBが量的緩和を終える、2014年末あたりにはその答えが出るだろう。
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