物流が止まる、経済が止まる──「鉄道貨物輸送の二重化」を急げ杉山淳一の時事日想(1/5 ページ)

» 2014年10月17日 08時00分 公開
[杉山淳一Business Media 誠]

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。2008年より工学院大学情報学部情報デザイン学科非常勤講師。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』、『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。 日本全国列車旅、達人のとっておき33選』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP


 社会的に重要な設備には二重化が必要である。

 なにを分かりきったことを、と言われるかもしれないが。

 先週、本誌の「さようならADSL」という記事が話題になった。ADSL回線について、KDDIが縮小の方針を示していたようで、2013年5月には一部コースの新規受付の終了を発表している。他の通信会社はまだ動きはないようだが、ADSLサービスは全体的に縮小に向かうと思われる。

photo (参考)個人向けADSLモデム

 ADSLサービスはなぜ終わるか。大きな理由は、光ファイバー回線が行き渡り、安価に提供されるようになったから。ADSLの安価で高速な通信という価値が薄れ、回線販売という商売にうまみがなくなった。鉄道にこじつければ、「路線バスが整備されたからローカル鉄道のお客さんが減った、もう維持できません」という話に似ている。

 しかし、もっと重要な理由がある。ADSLの企業向けサービスの役割「光ファイバー回線に対するバックアップ」が終わるからだ。

 全国展開する企業は全国の拠点を結ぶネットワークを構築している。鉄道もしかり、航空業界もしかり。コンビニのPOS端末やATMもそうだ。ネットワーク端末を使うあらゆる企業で、いまやネットワークは電気や水と同じくらい重要だ。これらは公共性の高いサービスに使われているほど、止まった時の混乱は大きくなる。

 企業ネットワークの多くは、当初、専用回線を契約していた。しかし現在はほとんどの企業が安価なインターネット回線に移行している。ブロードバンドはベストエフォート契約だから、専用回線より安定性の点で劣る。そこで、万が一通信に障害が発生しても業務を維持できるように回線を二重化する。光回線とADSL、光回線とISDNというように。ふだんは光回線を使うけれど、光回線に障害が発生しても、もう一つの回線に切り替えて業務を継続できる。そして、ADSLの代わりにモバイル回線をバックアップ用に採用する企業が増えつつある。

 なぜかといえば、東日本大震災の教訓である。

 光回線もADSLも有線である。災害発生時に通信網が無事だとしても、そこから端末までの間で電柱が倒れたり、共同溝が破壊されたら、どちらも使えない。これに対してモバイル回線の復旧は早い。移動基地局を稼働して電波を中継すれば、電柱と電線を整備するよりも早く仮復旧できる。バックアップの本来の意味を考えると、ADSLより電波の方がよいというわけだ。両方とも有線では二重化とは言えない。

photo 災害対策で稼働するモバイル通信網の移動基地局車と設備(出典:NTTドコモWebサイト「災害対策への取組み」)

 有線という意味ではISDNもそうだ。ただし、こちらはもう少し長生きかもしれない。光回線もADSLもモバイル回線も「ベストエフォート」のサービスだ。いつも速いわけじゃなく、混雑すれば通信速度が極端に低下する。それに比べてISDNは速度が遅いとはいえ、回線品質が安定している。ATMのバックアップはISDNだと聞いたことがある。

 このような流れに乗って、通信会社はADSLユーザーに対してモバイル回線への移行を促していくだろう。

 では、鉄道貨物輸送はどうなのか。

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