ただ、そんなタカラベルモント社の存在に危機感を覚えた米国メーカーは、ケネディ政権下で行われた1962年の通商拡大法に伴う貿易摩擦を逆手に圧力をかけてきた。「しかしいずれも当社の説明が受け入れられ、当社の営業努力によりさらなる発展を遂げることができた」とタカラベルモント社は語る。
皮肉なことに、当時米国で行われた調査の資料を読むと、いかにタカラベルモント社が競合と比べて優れていたかが浮き彫りになっている。結局は、貿易摩擦もタカラベルモント社の勢いを止めることはできなかった。
タカラベルモント社は、1969年に経営陣の老齢化と開発力の低下から経営難に陥っていた米国コーケン社を譲り受ける。かつて同社がお手本にした、米国のトップメーカーだ。その米国大手2大メーカーのひとつを傘下に収めたことにより、米国市場のシェア70%を獲得しマーケットのリーダーとなった。
それ以来、米国のみならず世界でもトップに君臨し続けている。タカラベルモント社の理容イスは現在、およそ150カ国に輸出されており、「良い製品は世界中どこでも受け入れられる」という創業者の信念が実を結んでいるようだ。
近年、英国と米国ではシェービングを行う男性オンリーの昔ながらの「The Barber」といったイメージのサロンがトレンドになっている。海外のメンズファッション誌などでも特集が組まれたり、セレブがバーバーショップに通うのが目撃されている。ヘアスタイルのトレンドセッターといわれる、デビッド・ベッカムなどがその一例だ。
タカラベルモント社製の理容イスも両国で売り上げが伸びているが、同社によれば、特に英国で売れているという。もし海外に行く機会があれば、レトロな「The Barber」に立ち寄ってみてはどうだろうか。かつてジェントルマンの社交場として栄えたバーバーショップで、最高級の理容イスに座りながら一流のサービスを体験してみるのもいいかもしれない。
「ベルモント」は米国で生まれた海外ブランド名で、「Bel(美しい)」と「mont(山)」という造語。「富士山の雄大な美しい姿のように育ってほしい」という願望をこめてつけられたそうだ。
1969年に宝鋳工所(創業時の社名から変更)と宝椅子販売(販売部門として設立した会社)が合併した際、翌年開催の大阪万博にパビリオンを出展するために海外でも通用する名前を、ということで現在の「タカラベルモント」という社名にした。
「made in Japan」――。かつては“格下”の響きがあったが、今は違う。日本発のヒット商品が次々に生まれ、世界の仲間入りを果たした。国境を越えた商品は、どのように誕生し、なぜ浸透したのか。Business Media 誠ではその謎に迫っていくために特集「世界で売れてる、日本発のヒット商品」をスタートする。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング