安倍首相は何のために解散するのか藤田正美の時事日想(1/2 ページ)

» 2014年11月19日 09時20分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]
安倍首相は11月18日夜首相官邸で会見を行い、消費税引き上げを18カ月引き上げること、11月21日に衆議院を解散することを表明した

 消費税増税先延ばし、解散総選挙なのだという。しかし安倍首相は何のために議会を解散するのだろう。消費税引き上げを先延ばしできることは「景気条項」として入れられていたから、法律に決めたことと違うことをやったわけではない。争点は「アベノミクス」と言われても、「成功か、失敗か」と判断できるとも思えない。はっきり言えば、時間とカネの無駄遣いとしか思えない選挙である。

 議会の解散は首相が決めることに違いはない。しかしそれは議会が首相に対して、不信任を突きつけ、政権運営がにっちもさっちも行かなくなったときに、議会への対抗手段として与えられた権利だ。もちろん自党に有利なタイミングで解散をしたいというのは無理もないことだと思うし、増税を実行するということが前回の公約に入っていなかったから改めて問い直すという理屈(参照リンク)も分からないではないが、いかんせん時期が悪い。

 7〜9月期のGDPがマイナス成長になったのは、政権にとってもショックだったはずだ。消費税引き上げの反動減が響いた4〜6月期(年率マイナス7.1%)からの回復が弱いとは言われていたが、それでもマイナスになるとは思っていなかっただろう。消費税を引き上げるのか、先延ばしにするのか、+3%ぐらいの数字が出てきていたら判断に迷ったはずだ。それがマイナスになってしまっては、安倍政権として選択肢はなかっただろうと思う。

2014年7〜9月期四半期別GDP成長率速報。7〜9月はマイナス0.4%となったが、消費税引き上げの反動が出た4〜6月のマイナス1.9%からは回復している(クリックすると、名目GDP成長率の推移、内外需要別寄与度のグラフも合わせて表示。出典:内閣府)

アベノミクスは失敗だったのか

 アベノミクスは失敗だったのか。野党は懸命に「失敗だった」と主張するだろうが、どこがどう失敗で、それをどうやってリカバリーするのかというところまで議論は進んでいない。国民に必要なのは、他の選択肢である。選択肢を示さない議論は単なる嫌みでしかない。

 アベノミクスに関してこれだけは言えそうだ。日本が抱える問題は、よく言われるように従来型の道筋、すなわち円安にして輸出企業が潤い、それが賃金などに反映されていくということでは解決できないということである。生産基地が海外に進出している以上、円が安くなり輸出企業の採算がよくなっても、輸出数量が増えることはあまり期待できない。生産能力が増えなければ、雇用も増えない。雇用が増えなければ、労働者への配分も増えない。したがってGDPの60%を占める個人消費も増えない。

 さらに増税が先に控えているとなれば、いちばん資産を保有している高齢者にしても、財布のひもを緩めるわけにはいかない。自分がいくつまで生きるか分からないし、医療費は上がる(自己負担分が増える)かもしれない。いくら孫への教育資金の贈与を無税にしても、自分の生活を犠牲にしてしまってはどうしようもない。

必要なのは「道筋を明らかにすること」

 国債にしろ社会保障改革にしろ、いまいちばん必要なことは、改革の道筋を明らかにすることである。2015年度の財政赤字のGDP比率を10年度の半分にし、2020年度には基礎的財政収支を黒字化するという「国際公約」はもはやただの紙切れになることがはっきりした。それでも目標が最低限2年ほど後ろに倒れるという試算を明らかにし、法律で決めることができれば、それはそれで世界を納得させることができるかもしれない。

 社会保障も同じなのだ。前期高齢者となった団塊の世代は、10年たてば後期高齢者になる。そのときには医療費は急速に増えることになることははっきりしている。なぜ医療費が増えるか。理由は3つある。ひとつは高齢者が急増すること。そして医療技術が進歩したために、病気を抱えたまま生活する人が増えること、最後に、収入のない独居老人が増えて「社会的入院」が増えることだ。

 これを解決するのは並大抵のことではない。少なくとも医療費を払える高齢者には1割負担ではなく3割負担をお願いしなくてはなるまい。ただその実現にも問題はある。所得をどう把握するのかということと、収入はなくても資産がある高齢者をどう把握するのかということだ。

 しかしこれで国民的合意を得るのはとても大変なことだ。個人情報保護の問題もあるし、第一、高齢者はせっかく1割負担のところをわざわざ3割負担になどされたくない。人口の多い高齢者は投票率も高く、政治家にとっては大事な票田だから、高齢者を怒らせたくはない。かくして社会保障改革は遅々として進まない。

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