専門性を磨いて働いていく――技術志向のエンジニアの中には、特定の企業に就職するのではなく、技術者派遣として働き、さまざまなプロジェクトに参加する道を選ぶ人も少なくない。だが派遣という働き方はどうしても、一般企業に正社員として就職するのと比べると立場や給与面が不安定だという印象を持たれがちだ。また、いわゆるエンジニアの「35歳限界説」のように、いつか自身のスキルが追いついていかなくなるのでは、という不安もつきまとう。
人材サービス企業のVSNでは、技術者を自社の正社員として雇用し、他社に派遣している。同社が会社のビジョンとして掲げるのが「バリューチェーン・イノベーター」(VI)だ。これは、社員の働きがいを高め、派遣技術者の雇用環境を改善する試みでもあるという。
VSNでは、この試みに取り組んだことによって、エンジニアがスキルアップを実感できるようになり、退職者が大幅に減ったという。そもそも、バリューチェーン・イノベーターは、VSN社内にあった、ある問題を解決していく過程で生まれた。バリューチェーン・イノベーターの取り組みに最初期から関わり、今もVIプロフェッショナルとして活躍する、VSN情報通信事業部長の馬場秀樹氏に話を聞いた。
→「働きがい」をどう生み出すか:派遣という働き方に新たな価値を――VSN 川崎健一郎社長 (参考記事)
――まず、馬場さんがVSNで、「バリューチェーン・イノベーター(VI)」という取り組みを進めるいきさつを教えてください。
馬場: 私は40歳なのですが、前身のベンチャーセーフネットに新入社員として入社して、今年で14年目になります。はじめのうちは派遣のエンジニアとして、SEの仕事をしていました。
――もともとご自身もエンジニアだったのですね。
馬場: 入社2年目から、派遣先のお客様と共に、ある国家プロジェクトに関わっていました。そのお客様先には当社から複数名エンジニアを派遣していたので、そのリーダーをやっていました。しかし現場とVSN本社との間に“距離”があり、どうも意思の食い違いがあると感じて、2003年ごろに当時事業部長だった川崎(健一郎氏、現VSN社長)に改善のための提案書を出したんです。それで、「社内に戻ってきてお前がやってみないか?」ということになりました。
――現場と本社との距離ということですが、具体的にはどんな問題があったのでしょう?
馬場: 当時、派遣エンジニアは自社との接点が非常に少なく、本社も現場の状況が分からなくなっていたんですね。そうすると、本社の指示が現場にそぐわなかったり、逆に本社が走らせている施策の情報が現場になかったりということが起きていました。そういう情報伝達手段がないために、エンジニアの心が離れやすくなって、派遣先のお客様の社員のようになってしまう。私が社内に戻ってから、エンジニアに会いに行くと「VSNさん」と言うわけです。「いや、君も(VSNの)社員だ」と。そういう状態が「まずいな」と感じていました。
――現場のエンジニアが派遣先企業の社員という意識になってしまっていたのですね。
馬場: はい。それと、我々の業界では契約を決める営業の立場が強くなりやすい。(派遣先に)送るエンジニアを営業がアサインすると、エンジニアが自己の成長のために行きたいような案件やクライアントを選べない。これも問題でした。
――そういった距離や営業とのバランスを改善するために、どのような提案書を出したのでしょうか?
馬場: まず、それまで営業が決めていた派遣先を、ある特定のレベルに達したエンジニアにはキャリアを自分で考えさせて、どこの派遣先に行きたいのか選ばせるように変更しました。それから、お客様先に行ったエンジニアを、3年から5年で必ず戻してローテーションさせる体制にしました。それまでなかった資格手当や研修制度を整備したり、社内にエンジニア出身者の営業などを増やして、現場と本社との齟齬(そご)の解消を図りました。
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