新たなゴールドラッシュ到来!? MVNOはバラ色の夢を見るか神尾寿の時事日想(1/3 ページ)

» 2015年01月07日 08時00分 公開
[神尾寿,Business Media 誠]

神尾寿(かみお・ひさし)

IT専門誌契約ライター、大手携帯電話会社の業務委託でデータ通信ビジネスのマーケティングなどを経て、1999年にジャーナリストとして独立。現在はIRIコマース&テクノロジー社、イード社の客員研究員も務める。携帯電話、非接触IC、自動車・ITSなどの市場・業界動向について、執筆や講演、企業コンサルティングを行っている。著書は「自動車ITS革命!」など。


 2014年の通信業界は、MVNOの話題で持ちきりだった。

 MVNO(Mobile Virtual Network Operator)とは、既存の大手通信事業者のインフラ設備を借りて通信サービスを提供する通信事業者のこと。周知の通り、通信事業は巨額なインフラ投資を要する装置産業であるのだが、MVNOは一定の通信容量を大手から借りることで“仕入れて”、それをさまざまなパッケージプランにして小売りするというビジネスモデルだ。

 MVNOの歴史は意外と古く、国内では2001年に日本通信がPHS事業者のDDIポケット(当時)のインフラを借りて投入した「b-mobile」が最初となっている。その後、2000年代を通してデータ通信専業のMVNOは増加していったが、その多くは法人市場向けや、商用車向けテレマティクス、物流管理といった特定用途のデータソリューションだった。

なぜ「MVNO=格安スマホ」という構図になった?

 一方で、2013年ごろから流行しているMVNOは、一般消費者向けのものが多い。「OCN」や「IIJmio」、「フリービットモバイル」、「NifMo」などISP(インターネットサービスプロバイダ)系サービスを皮切りに、楽天やカルチュア・コンビニエンス・クラブのMVNO参入も話題になった。また直近では、インフラ設備を提供する側であるKDDIが、自らの子会社を使ってMVNO事業「UQ Mobile」を立ち上げるなど、この分野の競争は激しくなっている。

フリービットモバイルの格安スマホ「PandA」 フリービットモバイルの格安スマホ「PandA」

 これら一般消費者向けMVNOの特徴は、端末に割安なAndroidスマートフォンを使い、音声通話とMNP(番号ポータビリティ)の利用を可能にしていること。つまり、データ専業ではなく、大手通信事業者のスマートフォンと同じようなサービスが利用できる。他方で、月々の料金は大手よりも安く設定し、“格安スマホ”と呼ばれるカテゴリを形成しているのだ。昨年にMVNOが注目されたのは、まさにこの「格安=安さ」の部分においてである。

 ではなぜ、MVNOだと格安スマホが実現できるのか。

 1つには、数千億から1兆円規模の投資を必要とするインフラ設備を持たず、インフラは事業に必要な分だけ仕入れれば良いという投資負担の小ささがある。インフラ側の負担が小さいので、市場のニーズに合わせた小容量・低価格な料金プランを作りやすい。実際、MVNOの料金プランの多くは、通信容量や通信速度を大手よりも抑えて、その代わりに低価格を実現しているケースが多い。

 また、キャリア独自の端末開発をできるだけ行わず、販売チャネルやサポート体制でコストを抑えるというのも理由だ。大手キャリアは全国に2000店規模程度のキャリアショップ網を作り、手厚いサポート体制を構築している。また、NTTドコモの「dマーケット」やauの「スマートパス」のようなキャリア独自サービスへの投資・開発を行うなど、“至れり尽くせり”な利用環境を作っている一方で、MVNOではここまでの投資を行っていない。通信サービス提供の周辺にあるコストの小ささも、MVNOがフットワークよく低価格な料金プランを投入できる要因である。

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