例えば、今回の襲撃後も懲りずにムハンマドをコケにする風刺画を掲載して、「我々は一切譲歩しない」と胸を張ったシャルリーエブドだが、「反ユダヤ」のネタはバリバリ譲歩する。事実、ユダヤ人を揶揄(やゆ)したフランス人漫画家モーリス・シネを解雇した過去もある。
さらに「私はシャルリー」で最新のタブーも生まれている。フランスの芸人デュードネ氏がユダヤ系食材スーパーの立てこもり犯の名を引き合いに、「オレはシャルリー・クリバリ※のような気分だ」とFacebookに書き込んだら身柄を拘束された。この他にも、テロリストを礼賛するような発言をした50人は当局から目をつけられているという。
要するに、イスラム叩きにはタブーはないが、自分たちのことになるとさまざまなタブーが生じるというのが、欧米社会でいうところの「表現の自由」というわけだ。こういうなんとも御都合主義的なロジックは、主に欧米以外の国や民族に向けられてきた。われわれ日本も然りだ。
東日本大震災後、フランスのコメディアンが、放射能の影響で、サッカーの川島永嗣(かわしま・えいじ)選手の手が4本に増えちゃったみたいなフレンチジョークをかまして拍手喝采を浴びた。日本政府が抗議したら、「ちっ、ユーモアのセンスがねえ連中だな」と逆ギレされたが、これがもしフランスのセーヌ川のほとりにある原発がメルトダウンして、日本人が同様のギャグをかましたらフランス人は顔を真っ赤にして怒るに違いない。
いや、そんなことはないでしょと思うかもしれないが、お笑い芸人のバカリズムがつけ鼻をした全日空のCMは人種差別だと猛抗議がきて中止に追い込まれた。「鼻が高い」というコントのような表現さえ許せないのに、放射能の影響で奇形になんてブラックジョークを笑い飛ばす広い心があるとは到底思えない。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング