“火中の栗拾い”に立ち向かう――WILLER TRAINSの「京都丹後鉄道」に期待杉山淳一の時事日想(2/5 ページ)

» 2015年03月27日 08時00分 公開
[杉山淳一Business Media 誠]

新しい「交通ビジネス」を作ったウィラーグループ

 ウィラーグループは1994年に旅行代理店として創業した。2001年に東京〜大阪間に高速ツアーバスの運行を開始。2006年にほぼ現在の組織となり、高速バス事業のブランドをWILLER EXPRESSとして路線を拡大していく。ツアーバス形態の機動力とIT技術を活用し、低価格な移動手段として人気となった。この手法は既存の高速路線バスの市場をおびやかすと言われた。また、ほぼ同時期に夜行列車が衰退していたため、鉄道の顧客も奪う存在だという声もあった。

ウィラーグループ組織図(出典:WILLER ALLIANCE) ウィラーグループ組織図(出典:WILLER ALLIANCE

 しかし、ウィラーグループは他の交通ビジネスを侵食する意図はなかったという。ウィラーグループ代表の村瀬茂高氏は、2012年3月に開催された新型バスの発表会で「他の交通手段との価格競争ではなく、移動需要そのものを拡大したい」と語っている(関連リンク)。つまり、「低価格な移動手段があれば、今まで旅行に行かなかった人も出かけられる」という考えだ。

 ちょっとロマンチックに言うと、遠距離恋愛の恋人たちが、今まではメールや電話で済ませていたけれど「5000円で往復できるなら会いに行きたい」と思うだろう。単身赴任のお父さんは、今まで月に1回しか家族の元へ行けなかったけれど、毎週行けるようになる。地方の高校生はアルバイトでお金を貯めて、半年に1回しか行けなかったディズニーランドへ、3か月に1回くらい行ける。「交通費がかさむから」と旅行しなかった人が、安く行けるなら旅をしようと思う。ちょうど航空機のLCCが、これまで海外旅行しなかった人に旅立つチャンスを与えたように。ウィラーグループはバスのLCCを目指した。

 移動需要創出のために、低価格路線だけではなく、付加価値の向上にも着手している。座席メーカーと共同開発して乗り心地の良いシートを提供し、さらに人気路線では異なる座席を持つ複数のバスを運行して選択できるようにした。プライバシーとエンターテイメント性を重視した半個室状の座席「コクーン」はその代表例だ。また、低廉な座席でも頭を覆う「キャノピー」を用意。これは女性客の「夜行バスで他人に寝顔を見せたくない」という声に配慮した。このように、既存の高速バスや夜行列車にはない、独自のサービスを提供し、若い人や女性の心をつかんだ。

寝顔を見られたくないという女性に配慮したリラックスシート 寝顔を見られたくないという女性に配慮したリラックスシート

 ツアーバスは路上で係員を目印に乗り場を探すというスタイルだった。しかしウィラーグループは東京と大阪に明るい待合室を整備。まるで飛行機の出発ゲートのような雰囲気を作っている。この待合室はWILLER TRAVELと提携した他のバス会社も利用できる。これはツアーバスのイメージ向上に大きく貢献している。

 安全施策の努力は前回も紹介した通り。当時、他社がトイレ付きバスを採用し休憩回数を減らす中で、ウィラーはトイレのないバスを多く運行し、休憩回数も多かった。それは「バスの走行中は着席のうえシートベルト使用が原則」で、「乗客のトイレ休憩を兼ねて運転士を交替させる」ため。安全運行を順守する姿勢が現れている。

 ウィラーグループの方針をまとめると「低料金による需要開拓」「同業他社になかったサービスの提供」「安全への取り組み」である。この3つの柱を他の交通事業にも生かせないか、そんなときに北近畿タンゴ鉄道の事業者公募があった。

 京都丹後鉄道の事業説明会の日は、スカイマークエアラインズの経営危機、民事再生などが報じられた。WILLER ALLIANCEに「スカイマークへの出資や支援も検討したか」と聞いたところ、「あらゆる可能性を検討する中にスカイマークもあったが、実現に至らなかった」という回答だった。ただし今後も「LCCだけではなくあらゆる交通手段をいかにネットワーク化するかを考えていきたい」と意欲をみせている。

片側1列の半個室シート「Cocoon」はプライベートモニター付き 片側1列の半個室シート「Cocoon」はプライベートモニター付き
大阪梅田のWILLERバスターミナル 大阪梅田のWILLERバスターミナル

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