“火中の栗拾い”に立ち向かう――WILLER TRAINSの「京都丹後鉄道」に期待杉山淳一の時事日想(5/5 ページ)

» 2015年03月27日 08時00分 公開
[杉山淳一Business Media 誠]
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規制緩和と地域再生法の改正が追い風になる

 公共交通のみで暮らせる仕組みをWILLER ALLIANCEは「高次元交通ネットワーク」と呼ぶ。鉄道事業のみにとどまらず、地域のバス会社やタクシー事業者と連携して、鉄道との乗り換えを改善する。また、自動車や小型バスを使った小型輸送システムを構築して、公共交通の空白地域を解消していく。ここにはWILLER EXPRESS JAPANが手掛けた路線バス事業のノウハウも生かされる。2006年の国土交通省の通達により、地方公共団体やNPO法人の過疎地有償旅客輸送が規制緩和された。道路運送法による車両登録や営業許可を要しない旅客輸送ができる(関連リンク1)(関連リンク2)。このNPO法人についてウィラーが支援することなども考えられそうだ。

 若い人が働く場所を作ることについては、企業の誘致が主な取り組みになる。村瀬代表は、地方の企業誘致について「ニワトリとタマゴのようだ」と語った。企業がなければ働こうとする若者は集まらないし、若者がいない地域に企業は進出しない。そこでWILLER ALLIANCEはまず企業誘致から始め、若者にUターン、Iターンを促す。そのためにはWILLER ALLIANCEの事業部門のうち、大都市になくても成立するカスタマーサービス部門、運行管理部門、オンライン予約システム部門を、京都丹後鉄道沿線に移転させることも検討しているとのことだ。

鉄道を中心とした交通網全体を整備する予定 鉄道を中心とした交通網全体を整備する予定

 ただし、そこまでしなくても企業誘致に勝算はありそうだ。政府は3月24日に地域再生法の改正案を閣議決定した。東京、大阪、名古屋の3大都市圏から地方に本社機能の一部を移転する企業などへの税制優遇措置を講じるという。報道の多くは東京から富山へ本社機能を移転するYKKが適用第1号と予想している。大阪から京都丹後鉄道沿線への企業移転も現実的だ。そのためにも高次元交通ネットワークを活用した受け皿が必要になる。

 上記の2つは地域創生そのものだ。鉄道事業の提案で、WILLER ALLIANCEはここまでやるかといった大風呂敷とも思える。しかし、これはWILLER ALLIANCEの発案ではない。北近畿タンゴ鉄道の大株主の京都府が、鉄道事業会社を公募するにあたって示した条件である。鉄道事業再生のために、地域再生も手掛けてほしい。その要望に対して、WILLER ALLIANCEができることを具体的に示したにすぎない。

 WILLER ALLIANCEの独自の構想は、3つ目の「交通や街作りを教育する場所にする」だ。若者を地域に招く手段として「教育事業」を手掛ける。京都丹後鉄道を鉄道実務教育の実践の場とし、WILLER EXPRESS JAPANをバス事業実務教育の場とする。地域の教育機関と連携し、必要とあれば教育機関についてウィラーグループが投資する可能性もある。京都丹後鉄道沿線地域を「交通・地域再生大学」にする構想だ。

 交通・地域再生大学の卒業生はウィラーグループで採用されるだけではなく、他の交通事業者への就職も支援したいという。教育者を他の地域や企業に派遣する事業も構想の中にある。富山ライトレールがLRTの教科書となったように、地方交通問題を考える上で「京都丹後鉄道」が生きた教科書になるかもしれない。



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