今のスマートウオッチは「スマート」じゃない――デジタルだからこそ実現できる針の表現力とは?カシオ計算機の2015年度時計事業戦略(1/3 ページ)

» 2015年03月31日 11時00分 公開
[青山祐介Business Media 誠]

 3月上旬、2015春夏シーズン腕時計の新作発表会を開催したカシオ計算機(参考記事)。昨年(2014年)は、GPS電波受信機能と標準電波受信機能を搭載した、GPSハイブリッド電波ソーラーのG-SHOCK「GPW-1000」とOCEANUS「OCW-G1000」を発売するなど、同社がこれまで培ってきた技術を余すことなく盛り込んだ意欲的な新作をリリースした一年だった。そんなカシオ計算機腕時計事業の2015年はどういった方向を目指しているのか、同社取締専務執行役員であり時計事業部長として時計事業全般を統括する増田裕一氏に伺った。

現在、G-SHOCKもOCEANUSもイチオシのモデルはGPSハイブリッド電波ソーラーだ(上がG-SHOCK「GPW-1000」、下がOCEANUS「OCW-G1000」)

デジタルウオッチのイメージが強いカシオがアナログウオッチに力を入れる理由

G-SHOCKの出荷数量は1997年がピークだった。2012年には海外出荷数が過去最高になり、2014年には過去最高売上を達成(クリックすると拡大して詳細を表示)

 カシオの時計事業がスタートしたのは1974年。同社のエレクトロニクス技術を生かした時計を作っていたが、1983年発売したG-SHOCKシリーズが爆発的ヒットとなり(参考記事)、1997年に売上高も過去最高を記録した。しかしその後、市場の縮小と共に同社の売り上げも伸び悩む中で、2003年、増田裕一氏は時計事業部の責任者に就任した(参照リンク)。時計事業30年目にあたる2004年に、増田氏は腕時計事業の戦略を大きく見直す。それは、従来のデジタルウオッチから高機能アナログウオッチに軸足を移すことだった。

 というのも、実は世界の腕時計市場の中で、デジタルウオッチの占める割合は、数量ベースで約2割、金額ベースでは1割にも満たないからだ。さらに1ドルにも満たないデジタルムーブメントを使って廉価な製品を作る新興メーカーが数多く存在することもあり、デジタルウオッチ市場の競争は激しい。「我々がやってきたデジタルウオッチは、全体の中ではまだまだマイナーな存在。そこに香港、中国、米国といった国々の新しいプレーヤーが多数参入してきても、アナログに対するシェアは大きく変わらず、伸びることはなかった」と増田氏。その中で高機能アナログウオッチに注力することを決めたのだが、「もともとカシオ計算機がウオッチ業界にデジタルで入ったのは、アナログが世の中を席巻していてデジタルでしか参入できなかったから。そこに30年後、再びアナログウオッチで参入しようというだけに、社内の説得が一番大変だった」という。

 この事業戦略の転換点のマイルストーンと言えるのが、2004年に発売されたOCEANUSシリーズの初号機である世界初のフルメタル電波ソーラー時計「OCW-500」(参照リンク)、そして2005年発売の5モーターを搭載した「OCW-600」だった。従来のクロノグラフが、少ないモーターで歯車の組み合わせによって複数の針を動かすものだったのとは逆に、5モータードライブによって針それぞれにモーターを与え、LSIで独立して制御するという仕組みだった。これにより、針に豊かな表現をさせることが可能となった。もちろんこの制御には高い処理能力、演算能力を持ったLSIを始め、高いエレクトロニクス技術が必要だが、これこそがカシオ計算機の強みそのものなのは言うまでもない。

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