クラウドファンディングで鉄道遺産を守れ!新連載・杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/5 ページ)

» 2015年04月03日 08時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

最大の難関は「資金繰り」

 代表の永山氏にメールと電話で話を伺った。そもそも、任意団体が鉄道車両を譲り受けること自体、簡単にできることだろうか。まず、車両が欲しいとして、どこに連絡すればいいか。ここで北海道オプショナルツアーズが培ってきた人脈や事業の連携が役立っているようだ。同社は日本旅行とJR北海道が出資し、企画旅行をジェイ・アール北海道バスで運行している。その縁でJR北海道の車両課に電話した。「711系、買えますか」「売ります」と即答だったという。

北海道鉄道観光資源研究会代表の永山茂さん。写真は2014年1月。鉄旅オブザイヤーの授賞式にて撮影。北海道オプショナルツアーズの廃線探訪シリーズ「(1)定山渓鉄道」「(2)夕張・三菱大夕張鉄道」がルーキー賞を獲得した 北海道鉄道観光資源研究会代表の永山茂さん。写真は2014年1月。鉄旅オブザイヤーの授賞式にて撮影。北海道オプショナルツアーズの廃線探訪シリーズ「(1)定山渓鉄道」「(2)夕張・三菱大夕張鉄道」がルーキー賞を獲得した

 JR北海道内にも711系に愛着を持ち、残したいと思っている職員は多いようだ。しかし会社の状況はそれを許さない。JR北海道は、JR旅客会社で唯一、沿線に鉄道博物館が存在しない。蒸気機関車の名機、C62形3号機も苗穂工場の奧で眠っている。鉄道記念日などの工場公開日に披露されるだけで、常設の展示施設を持っていない。JR北海道の担当者は「保存してくれるなら協力は惜しまない」とまで言ってくれたそうだ。自社で保管するより、外部で保存してくれるなら、いつでも多くの人々に見てもらえる。そんな期待もあったことだろう。

 しかし電車は鉄道会社の資産である。「要らなくなったからタダで上げます」というわけにはいかない。見積もりによると電車2両の買い取り価格は約150万円。この値段は「鉄くず」として資源再利用業者が買い取る相場と同じだという。私たちの生活に貢献しても、そこにどんな思いが込められていたとしても、廃車体の価値は「1トンあたりの鉄くず相場」だ。ちょっと悲しいけれど、公正な価格と言える。そこに移動費、設置費用などが約350万円かかる。もちろん設置場所も必要だ。

 資金と設置場所、2つの壁が立ちはだかる。文化庁などに文化財助成金を申し込んでみたけれど、「鉄道車両は文化遺産にならない」と断られてしまった。ヒドイ話だ。それでも幸運なことに、運動に賛同する企業が現れた。農業生産法人の「道下産地」だ。岩見沢駅近郊に計画中の直営レストラン用地の一角を提供し、輸送費用の一部も負担してくれた。もちろんそこには広告的な集客の期待もあるだろう。しかし、電車は誰もが使える公共の休憩施設にしたい。そうなると、一企業による全額負担は厳しい。

 残りの必要資金は234万円。「北海道鉄道観光資源研究会」の会員数は約50人。一人あたり約5万円だ。趣味の対価としては、ちょっと頑張れば……という金額かもしれない。しかし、無理をして自己負担とすれば、会の自己満足に終わってしまう。研究会の趣旨としては、活動を広く認知してもらい、多くの人々が鉄道遺産に関心を持ってもらいたい。そこでITに詳しい会員から「クラウドファンディング」が提案された。

711系電車の保存予定地。岩見沢市郊外で、7月に道下産地のレストランもオープンする予定。場所は函館本線岩見沢駅から南東へ約8キロメートル。室蘭本線志文駅から東南東へ約5キロメートル。北海道中央バスの「旧渡船場」停留所から1.5キロメートル(写真提供:日本旅行瀬端浩之様) 711系電車の保存予定地。岩見沢市郊外で、7月に道下産地のレストランもオープンする予定。場所は函館本線岩見沢駅から南東へ約8キロメートル。室蘭本線志文駅から東南東へ約5キロメートル。北海道中央バスの「旧渡船場」停留所から1.5キロメートル(写真提供:日本旅行瀬端浩之様)

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.