同情する、しない? 外資系金融マンの給料事情:山崎元の時事日想(2/2 ページ)
全世界を金融不安に巻き込んだ「リーマンショック」。外資系金融機関のリストラが加速するという指摘もあるが、「彼らは高給取りなので、同情しない」といった厳しい声も。しかし外資系金融マンでもポジションによっては、それほど高い給料をもらっていないようだ。
外資系企業の報酬は高い?
従って、職種がフロントとバックに分かれると、同じ会社にいて、同じ大学出身で共に30歳で、片方が年収6000万円、もう片方が1200万円、というくらいの差は普通に発生する。
問題はリスクだ。外資系の会社が日系の会社と最も違うところは、端的に言って外資は「クビになることがある会社」だという点だろう。外資のすべてがクビを切りまくるわけでもないし、日系企業でもクビはあるが、リスクと緊張感は格段に違う。
フロントとバックでは、やはり、フロントの方がリスクが大きい。稼ぎが悪くなるとそもそも居づらくなるし、容赦なくクビになる。また、そこそこに稼いでいても、もっと期待できる人材を外から引っ張るためにクビになることもある。
バックの場合は、本人の稼ぎが悪くてクビということはない。長く勤めている人は、明らかにバックの方が多いだろう。しかし、本社ないし日本法人のコストカットの一環として人員整理の対象になることはあるし、外資特有の撤退や縮小のリスクもある。サービスすべきフロントの相手が入れ替わって、合わなくなってクビというようなこともありうる。「日系企業の5割増しから2倍」といった報酬水準がこうしたリスクにも十分見合うかどうかは難しいところだ。
稼げるときに稼ぐことが1番のリスク管理
リーマンの日本法人は、今後どうなるのかはまだ流動的だが、野村ホールディングスがリーマンのアジア事業(含む日本)を買収することで合意した。全面撤退という最悪の事態ではなさそうだが、大幅な人員縮小になる可能性は大いにある。フロントのプレーヤーにはそれなりの覚悟があったかもしれないが、バックオフィスの社員たちには、いろいろな意味で同情を禁じ得ない。
フロントを選ぶか、バックを選ぶか、また、同じフロントでもどのような仕事を選ぶかで大きな差がある。また外資系金融の日本法人というリスク要因自体が相当に大きいので、結局、リスクを怖がるよりも、稼げるときにたくさん稼いでおくのが1番のリスク管理だという感覚が正しいことが多いだろう。しかし、稼げる仕事には倫理的に疑問のあるものも少なくないので、その辺の価値判断も重要だ。いずれにせよ外資勤めでは、いつどんな職に就いているかで、天地の違いがある。もっとも、どの分野でもにわかにプロになれるわけではないから、職種(担当商品も含めて)の選択には運の介在が大きい。
外資勤めでは最悪の場合、自力で再就職して食べていけるだけの能力と自信が必要だ。船が転覆したら、自分は岸まで自力で泳げる、というような感覚が要る。
この点では、新卒あるいは十分なスキルがない段階で、こうした逆境にさらされると厳しい。10年と少し前に、ある欧州の銀行系証券会社が日本株部門を撤退したことがあったが、その際には(季節は秋だった)、その年に新卒で入社してたまたま株式部門に配属された青年もまとめてリストラされた。筆者は別の外資系証券会社にいて、彼の就職相談に乗ったが、新卒までクビを切るとは、いかに外資とはいえひどい会社だと思ったものだった。
また、金融機関同士の買収や合併があると、たいていは程なくリストラがあるし(金融機関の合併は最初からリストラ益をあてにしている)、主導権を取れなかった側の社員は淘汰されることが多いし、働き心地が悪くなることが多い。
バンク・オブ・アメリカに買収されることが決まったメリルリンチの社員の中には、「(僕は)リーマンでなくてよかった」と安堵している人がいるかもしれないが、前途は甘くないだろう。
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