“環境住宅+共同生活”型ライフスタイルへの憧れ――ゲロルズエッカー環境住宅地:松田雅央の時事日想・特別編(3/3 ページ)
環境にやさしい住宅作りと数十家族での共同生活とを両立させたゲロルズエッカー環境住宅地。建設から15年を経て、そのライフスタイルが改めて注目されている。環境意識の高まりに加えて、隣人同士が密なコミュニティーを築いていることが評価されているのだ。
コミュニティーは成熟する
建設当時、ゲロルズエッカー環境住宅地はヨーロッパ内でも大きな注目を集め、週末には見学者を乗せたバスがしばしば来ていたそうだ。「朝起きたら庭で見知らぬ人が手を振っていた」「見学者が中央広場で弁当を広げてピクニックを始める」など、笑ってばかりもいられぬ状況に困ったが、そうした熱もいつしか冷め、見学者の数は徐々に減っていった。
ところが建設10年を過ぎて、再び注目が集まっている。それはひとえにゲロルズエッカー環境住宅地が持つ優れた社会性によるものだ。
先駆的な環境住宅の省エネ技術は時とともに一般化し、10年もすれば新築住宅のスタンダード技術となる。20年前は珍しかった2重窓も今は普通に使われ、トレンドは3重窓に移ろうとしている。環境技術はいい意味で陳腐化するが、対照的に住民が育むコミュニティーは時を経るごとに成熟の度合いを深めていく。
ゲロルズエッカー環境住宅地は、理想を共有する建築主たちが組合を設立し、設計業者の選定、建設素材選び、施工業者探しを自ら行った。大学での研究を下地とし、組合を作ってから住宅地が完成するまでだけでも2年以上を費やしている。途中で抜ける建築主がいれば新聞広告を出して補充し、資金問題、コミュニティーハウス建設問題といった喧々諤々(けんけんがくがく)のプロセスを乗り越えて完成にこぎつけることができた。
“村のような社会”を目指して
初代住宅会長のグートツァイトさんの言葉を借りれば、住人が理想としたのは“村のような社会”。ただし、彼が言うのは閉鎖的で因習に縛られた村ではなく、時代に合った隣人関係を築き、個人のプライバシーを守りながらも開放的で助け合いの精神が生きる共同社会である。
庭と庭を隔てる柵はなく、子どもたちは住宅地全体を自分の遊び場にしてしまう。都市生活では「隣の人の仕事も素性も知らない」ということが普通にあるが、顔見知りの住宅地ならば留守中の防犯も心配ない。実際に隣人の通報で本当に空き巣が捕まったこともあるという。毎日の安心感だけでもこの住宅地に住む価値は大きい。
共同社会に人間関係のトラブルは付き物。山あり谷ありの15年を何とか乗り切ってきたコツをグートツァイトさんに伺ったところ、返ってきた答えは一言「試してみる勇気かな」。
こういった共同社会の要素は必ずしも環境住宅地の必須条件ではないが、両者を同時に実現したところがゲロルズエッカー環境住宅地の魅力である。
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