カメラ&メモリの価格低下で、注目を集めるドライブレコーダー市場:神尾寿の時事日想
走行データを記録するドライブレコーダーの市場が急拡大している。その背景には、ほかのデジタル機器のために量産している部品を転用することで、低価格で販売できるようになったことがある。
ドライブレコーダーという機器をご存じだろうか。
ドライブレコーダーはクルマ向けオプション機器の1つで、事故時や事故になりそうな急加速・急減速を検知すると、その前後の映像や走行データを記録するものだ。役割としては、航空機事故でよく出てくる「フライトレコーダー」のクルマ版と考えれば分かりやすいだろう。
このドライブレコーダーの市場が拡大の兆しを見せている。
矢野経済研究所が2008年11月に発表した資料によると、2008年の市場規模は前年比65%増と大幅に増加。特にディーラーオプション化や新規メーカー参入が進んだことによって、一般ユーザー向け市場が全体の市場をけん引しているという。2011年から2012年ころには自動車保険での優遇措置も検討されており、同研究所では2014年の市場規模は85万台(販売台数ベース)、296億円(小売金額ベース)となると予測している。
デバイス価格の低下が普及と高機能化を後押し
なぜ、ここにきてドライブレコーダーの一般普及に弾みがついたのか。
その最大の理由は「低価格化」だ。ドライブレコーダーの基本構成部品は、GPSと小型カメラ、モーションセンサー、そして映像記録を保存するメモリーカードだが、これらすべてが昨今のデジタル機器の進化で一気に低廉化した。
例えば、車外の状況を映す広画角カメラは、クルマの車庫入れをサポートする「リアビューカメラ」や「サイドビューカメラ」でも使われる部品だ。どちらも女性ドライバーのニーズが高く、この数年で一気に普及したものである。当然ながら、量産効果で価格低下が起きている。またクルマ以外でも、住宅や街中用の監視カメラニーズも急拡大しており、低価格化が進んでいる。
クルマの挙動を監視するモーションセンサーは、自動車メーカーが使用する高性能タイプは割高だが、市販ドライブレコーダーで多く使われているのは、実は携帯電話や家庭用ゲーム機で使われているものと同じ部品だ。ドコモやauの携帯電話や、任天堂のWiiなどモーションセンサー搭載機器は急増しており、それを転用するドライブレコーダーも安く作れるようになったというわけだ。
さらに低価格化が著しいのが、メモリカードだ。ドライブレコーダーの多くがSDメモリーカードを保存媒体に使うのだが、これもデジタルカメラや携帯電話の量産化で、部品価格が一気に下がったものの代表格である。例えば、2GバイトのmicroSD / SD兼用カードは、今ならamazonで550円で販売されている。
このようにさまざまなデジタル機器で起きた部品価格下落のメリットを受けて、ドライブレコーダーは低価格化。現在の主流販売価格帯は3〜5万円になっている。個人ユーザーが事故や運転をめぐるトラブルを避けるために導入する場合でも、十分に手が届く範囲内になってきたのだ。
タクシー向けドライブレコーダーが爆発的に普及する?
さらに、この1カ月で大きく注目されているのが、“タクシー向け”のドライブレコーダーだ。
タクシーは以前から事故処理の手続き軽減のためにドライブレコーダーを導入する事業者が少なくなかったが、今注目されているのは、事故のための車外監視だけでなく、車内の映像も同時に保存できる“監視カメラ両用タイプ”である。大阪でタクシードライバーを殺傷する強盗事件が頻発したため、タクシー会社が「事故処理トラブルの低減」と「強盗事件の抑止」どちらにも対応できるドライブレコーダーの導入に積極的な姿勢になっているのだ。
すでに都内などの一部タクシー会社は、こうしたセキュリティカメラ兼用型ドライブレコーダーを導入している。2008年3月に東京・練馬区内で起きたタクシー強盗事件ではドライブレコーダーの映像記録が警察に提出され、捜査に使われるなど有用性も実証されている状況だ。今後もタクシーを狙った強盗事件が続けば、全国のタクシー会社でセキュリティカメラ兼用型のドライブレコーダーの導入に弾みが付きそうだ。
個人・法人におけるドライブレコーダーの普及率拡大は、事故トラブルの抑制に効果があるだけでなく、ドライバーの安全運転を促し、事故そのものの抑止にも貢献する。さらに今後は、裁判での証拠能力を高めるための情報保全機能の向上・進化が進むことで、自動車保険料や裁判コストの抑制効果も期待できそうだ。ドライブレコーダー市場は、注目しておいて損がない分野と言えるだろう。
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