廃線の危機を脱するアイデアとは?――ある第三セクターの再生物語:近距離交通特集(5/5 ページ)
税金を投入して維持せざるを得ない状況下、全国で存続の危機を迎えているローカル鉄道は多い。兵庫県加西市の北条鉄道も例外ではないが、加西市長の中川暢三(ちょうぞう)氏は北条鉄道を残す決断をした。職員の意識を変え、黒字化を目指すために実施している、中川氏のユニークな施策とは?
再生、そして民営化を目指す
2006年に中川氏が社長に就任した時、北条鉄道の主要株主は加西市が32%、兵庫県が17%、以下、小野市と加西商工会議所、神姫バス、三井住友銀行がそれぞれ5%だった。ほかにも地元企業が出資しているという。
その後、加西市は兵庫県信連、ニッセイ同和損害保険の株式を買い取った。今後も加西市の出資比率を上げていきたいという。「第三セクター設立時に、義理で株主になった会社の株を加西市が買い取る。そして本気で経営にコミットしていただく会社に株を持ってもらいたい」という思いがある。
「加西市の出資比率は51%まで増やしたい。このままでは経営改革したい時に、経営責任を取る社長(加西市長)の意志が貫けない。緊急株主総会を開くにしても、スケジュールを調整して数カ月後ということでは経営にならないですよ。
それに、民間企業からの出資はうれしいですが、足かせになることもあります。例えば、北条鉄道からの受注を期待して出資している場合ですね。受注に関しては複数の業者さんから見積もりを取って、安くて質の良いところにお願いしたい。
加西市が決定権を持ち、経営改革して黒字の体質を作る。そうしたら次は民営化へ移行させます。市長は加西市本体の再建のために多忙を極めています。病院の問題も学校の問題も下水道整備の問題もある。北条鉄道の社長まで満足にできないだろうと思う。完全民営化は鉄道のため、市民のため、そして私のためでもあり、未来の加西市長のためでもある」
民間出身の中川市長ならではのアイデアとして、バイオディーゼル車両の運行計画がある。食用油の廃油を燃料化して列車を運行する。その実験も、日本初・世界初の実用化実験として話題を集めた。この廃油リサイクルの仕組みが面白い。加西市の負担がほとんどかかからない形で進行しているのだ。
「市内の各家庭からの廃油に加え、弁当の仕出し会社から月産4000リットルの供給を受けています。それ以外に、隣接の加東(かとう)市、三木市からも学校給食などで出る廃油を無料でいただいています。
燃料の精製には日本サムスンから供与してもらった製造プラントを使っています。その設備代は大半をサムスンが提供してくれました。加西市の環境事業に参加することで、サムスンが日本国内の経済活動で発生させているCO2の削減義務を果たせるという仕組みです」
中川市長は北条鉄道の社長に就任した時、北条鉄道活性化計画を作った。赤字は半減させる。利用客の目標は年間34万人、加西市からの受託事業を拡大して経営を安定させる。このうち、受託事業以外の部分は達成した。さらに増収プランとして、駅のネーミングライツやラッピング広告列車の検討も始めた。これが実現すると年間1000万円以上の増収が期待できるという。
ほかにも好材料はある。北条町駅のそばにイオンの大型ショッピングセンターが完成し、年間900万人もの来店客があり、乗客増の期待材料となっているのだ。順調に乗客が増えれば、法華口駅に列車のすれ違い設備を作る計画を復活させて、現在の1時間サイクルから30分サイクルの運行にしたいという。
今はまだ赤字経営だが、黒字化への道筋は見えてきた。完全民営化へ向けて、北条鉄道と加西市の挑戦はこれからも続く。
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