そこは地域のエコの中心地――ドイツのエネルギー・水道公社:松田雅央の時事日想(3/3 ページ)
電気・ガス・水道、さらには暖房給湯用の熱(温水)まで、地域の供給事業を一手に担うエネルギー・水道公社。公社がどのように環境への取り組みを進めているのか、カールスルーエ市エネルギー・水道公社を例に紹介しよう。
再生可能エネルギーの開発
公社の全電力使用量に占める再生可能エネルギー電力生産量(自己発電分)の割合は残念ながら1%にも届かない。ドイツ全体でみると風力、水力、バイオマス、太陽光といった再生可能エネルギー由来の電力使用割合は14%を超えており、それに比べるとかなり低い。
しかしながら、全電力使用量に占める再生可能エネルギー電力の割合は24%を超えている。どういうことかといえば、自前の再生可能エネルギー発電量は少ないが、ほかの電力会社から買い取ることによってその割合を高めているのだ。もちろん公社としては自己発電分を増やしたいのだが、以下のような理由から開発は難しい。
- 風力発電の適地がほとんどない:丘陵に挟まれたライン川の平野に位置するため
- 水力発電所が少ない
- バイオマス資源に恵まれない:バイオマスを生み出す畜産業や林業が盛んでない
- 太陽光発電施設が少ない:大規模太陽光発電(メガーソーラー)には広大な敷地と高額の資金が必要。費用対効果の点から実現していない
ドイツ政府は再生可能エネルギー電力の割合を2030年に50%まで引き上げる目標を立てているが、適性は地域ごとに異なる。従って、必ずしも全国でまんべんなく再生可能エネルギーを開発できるわけではない。
消費者の中には公社に期待するだけでなく、自ら再生可能エネルギーに投資したいという要望があり、公社では「Natur−R料金プラン」を用意している。これは通常の電力料金(1キロワットアワー≒0.20ユーロ)に0.04ユーロを上乗せする料金プランで、この上乗せ分がすべて域内の風力発電、太陽光発電、水力発電開発に投資される仕組みだ。
家庭の電力使用量は1世帯当たり年間約3000キロワットアワーなので、Natur-R料金プランを選択すると年間120ユーロ程度の負担増となる。公社の管轄する域内にはおよそ10万世帯があり、そのうちNatur-R料金プランを利用しているのは約1700世帯。Natur-R料金プランだけで劇的な効果が得られるわけではないが、こういった選択肢を提供することで、消費者の環境意識を刺激するのも公社の役割である。
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