フィットはなぜ売れ続けるのか? ロングセラーの秘密:郷好文の“うふふ”マーケティング(2/2 ページ)
トヨタの新型プリウスやホンダのインサイト発売で盛り上がる自動車業界。しかし、そうした喧騒をよそに売れ続けているのが、ホンダのフィットだ。人気を保ち続けるフィットの秘密を分析してみた。
斜め後方45度のデザインが販売を左右する
フィットのライバル車の同じ部位を見てみよう。
トヨタヴィッツは素っ気ない。4枚ドアのエンドを手堅くまとめたという風情で面白みに欠ける。アシンメトリー(左右非対称)の日産キューブのデザイン処理はスゴイ。ドライバーが死角になりがちな左後方をガラスにする合理性だけでなく、左右の非対称デザインが新鮮である。マツダデミオは、サイドのウェッジラインを重視して、リアクォータウィンドウを削った。ウエッジシェイプを効かせるのはスポーティ車の定石だが、その分ガラスは狭くなり庶民の運転しやすさからは離れる。
「手堅いヴィッツ」に「奇抜なキューブ」そして「スタイリッシュなデミオ」。形容詞そのまま2008年度の販売実績に表れた。ヴィッツ11万台(3位)、デミオ5万8000台(10位)、キューブ4万7000台(17位)。ちなみに現行2代目フィット(2007年10月モデルチェンジ)では、前方の三角窓が大きくなったが、リアウインドウの形状は初代を踏襲している。
金融恐慌後、消費者はしらふになった
大衆的過ぎずデザインに溺れることもない。劣化しない価値。それがヒットの理由である。その価値を“メタ・リアリティ”と呼ぼう。メタとは“超える”、リアリティは“現実”である。地に足の付いた商品価値を極めつつ、どこか現実を超えた価値を実現する商品。金融恐慌後、そんな“メタ・リアリティ”商品がウケるようになってきた。
それまでは、大衆を細分化し差別化する戦略がマーケティングの定石だった。「カローラ」はその代表例で「カローラ アクシオ」「カローラ フィールダー」「カローラ ルミオン」など“カローラ顧客”を切り分けて需要を維持してきた。ターゲティングをしっかりさせて、デザインやパッケージングで差別化を図るキューブやデミオも差別化だ。だがどれにも大きな手応えがなくなり、クルマ離れが顕著になった。
金融恐慌を境に、消費者は素面(しらふ)になった。
購買層は所得減におちいり、流行に踊る消費者を演じることに疲れた。ブランドショップやセレクトショップを冷ややかに見出した。ブランド物語は空々しく響き、(高いだけの)化けの皮が剥がれた“ブランド記号消費”にはサヨウナラ。自分のこだわりにこだわることさえ、どこか不自然になった。
だがメタ・リアリティのある商品・店舗はいきいきしている。ユニクロ、しまむら(参照記事)、IKEA、無印良品。サンダルの「クロックス」もそうだ。微妙に泥くさく垢抜けない、全世界市民共通デザインがウケる。
売れない理由……買い過ぎ・タンスがいっぱい・ワクワク商品不足。もっともだが核心を突いていない。金融恐慌後の消費者は、本質的な価値のあるものなら、万人が買おうと少数が選ぼうとウエルカムなのだ。メタ・リアルな価値があれば買うのである。
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