タブレット端末で変わる「人と企業」の関係性:デジタルPRの仕掛け方(2/2 ページ)
企業と消費者が直接接触する機会は、今後ますます増えていく。iPadのようなタブレット端末、そしてその上で稼働する専用アプリは、企業のマーケティングやプロモーションを大きく変える可能性を秘めている。iPadの活用事例を中心に、企業コミュニケーションの未来を考察する。
企業のマーケティングを担うタブレット端末
タブレット端末を「自社メディア」と位置付けることで、アプリを通じて企業の情報を消費者に届けやすくなる。企業が提供するiPadアプリについて、国内外の最新事例を紹介しよう。
海外企業のiPadアプリでは、メルセデスベンツのブランドマガジン「Mercedesmagazine」が秀逸だ。アプリを起動すると映画の予告編のような動画が流れ、車種のコンセプトや同社のアフリカでの社会貢献活動などが高品質な動画と写真で紹介される。のべ54ページのコンテンツだ。iPad上で表現できるクリエイティブを活用し、ブランドの世界観を表現している。ブランディングツールとしての企業アプリの手本となる例だ。
企業アプリは販売促進ツールにもなる。雑誌コンテンツを提供するクリニーク ラボラトリーズのiPadアプリ「Smile」が代表例だ。雑誌コンテンツの横にはEC(電子商取引)ボタンが付いており、利用者は商品をその場で購入できる。マーケティングの一連の流れである「認知」「理解」「購買」をiPadアプリ上で完結させているのが特徴だ。
このようにタブレット端末に対応したアプリは、企業のマーケティングやプロモーション活動を補完する。例えばiPadアプリはソーシャルメディアとの連携に優れており、利用者の感想や体験を口コミとして波及させやすい。ユーザーIDを取得して利用者に応じた情報を提供したり、アプリの更新を知らせる「プッシュ通知」でリピート利用を促したりすることもできる。
タブレット端末の代表格であるiPadは、マーケティングに適した条件を兼ね備えた端末といえる。
デジタル時代の企業コミュニケーション
最後に、少し先のデジタルコミュニケーションについてお話したい。米Appleは9月1日(現地時間)に新型「Apple TV」を発表した。PCやMac内のコンテンツに加え、Netflix(会員登録が必要)、YouTube、Flickrのコンテンツをテレビにストリーミングできるほか、映画とテレビ番組のレンタルサービスが利用可能になるという。米Googleは今秋から、Webをテレビ画面で利用できる「Google TV」を米国で立ち上げると発表した。
これらのサービスは、既存のマスメディアだけでなく、企業や個人を含め、誰もがテレビ番組を提供できる時代の到来を感じさせる。インターネット接続環境を整備すれば、コンテンツの配信や収益化ができるようになる。接触時間の長いテレビがデジタル化することで、企業はそれをiTunesのようなコンテンツ配信プラットフォームとして活用し、自社コンテンツを配信できるのだ。
消費者はテレビを見ながら物を調べ、その場で気に入った商品を購入することもできる。企業の商品やサービス担当者とテレビ越しに会話ができるようになるかもしれない。夢のような話が、実は眼前に迫ってきている。
企業が消費者と直接接触する機会は増えていく。大事なのは、デジタルPRの鍵を握る「コンテンツ発想」を持つことだ。それは、練り上げたコンテンツを自社メディアとして展開し、ソーシャルメディアで話題を作り、マスメディアを活用してスタートアップ時の集客を増やしていくことを指す。デジタル時代の企業コミュニケーションには、トリプルメディアの活用が不可欠になることは間違いなさそうだ。
著者プロフィール:野崎耕司(のざき こうじ)
ビルコム タッチパッド端末事業部ディレクター。宮城大学大学院事業構想研究科卒。2006年1月ビルコムに入社し、コンサルティング、不動産、Webサービス、出版などの業界でB2B、B2Cを対象としたPRコンサルティングを経験。2009年1月よりブランディング、マーケティング活動に従事。デジタルツールを駆使したマーケティングプランニングに精通しており、共著に『Twitterマーケティング』(インプレスジャパン)がある。2010年6月よりタッチパッド端末事業部ディレクターに就任し、「iPadブランドマガジン」をはじめとするタッチパッド端末事業の商品開発から営業/制作までを一貫して統括している。
関連記事
- Googleのユーザー至上主義から学ぶ企業プロモーションの在り方
iPadやiPhoneといったモバイル端末の普及は、企業のプロモーションの在り方を大きく変える可能性がある。Googleや味の素が実現した「消費者視点のコンテンツの発想」からは、企業プロモーションの進化形が見えてくる。 - トリプルメディア時代の企業プロモーション
iPadなどのデジタルデバイスの普及は、企業と消費者のコミュニケーションの在り方に変化をもたらしている。消費者に正しく情報を届けるために、企業は何をすべきか。今回は商品やサービスの流行を作り、トリプルメディアを生かしてメッセージを伝えるための考え方を紹介する。 - トリプルメディアを駆使、「情熱の系譜」舞台裏
2社が合併して誕生した協和発酵キリンは、企業ブランドを消費者に浸透させるために、テレビ、Twitter、iPadを中心としたプロモーション活動を展開した。同社の取り組みからトリプルメディアを駆使したプロモーション活動の勘所を探る。 - iPadは自社メディアになるか――「情熱の系譜」と効果測定
協和発酵キリンは認知度向上を狙い、トリプルメディアを駆使したプロモーションを展開した。中期的な視点で事業戦略とプロモーションを密接につなげ、iPadアプリのリーチ数など各種KPIを設定し、 - 番組をテレビ以外の媒体にも 「情熱の系譜」iPadアプリ配信の背景
テレ東「情熱の系譜」は、放送と同時にYouTube配信したり、番組と連動したiPadアプリを公開するといった試みで、視聴者層をテレビの外にも広げようとしている。 - iPadは企業を変えるか
企業の間でも利用が進んでいるiPad。このタブレット端末は企業の世界にどんな変化をもたらすのだろうか。 - 「売り方」の構造が変わる――WebPRの台頭
- Webで売るために――企業が理解すべき4つの購買ステップ
- Webプロモーションを成功に導く5つのステップ
- メディアに火を付けるコツ【前編】
- メディアに火を付けるコツ【後編】
- 「効果測定」でWebプロモーションを完結させる
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.