なぜ日本メーカーは「イノベーション」ができないのか:僕は、だれの真似もしない(3/3 ページ)
メーカーがすべきなのは「心の琴線に触れるモノ作り」であって、機能比較やその多さを競うことではない。自信を持って、自分が愛せる製品を世に送り出せ。
ジョブズが気に入らなければ発売時期は延びる
――他社と機能を比較し、優れている点があれば安心できる、そんな効果があったのかもしれないですね。
前刀氏: ソニーもかつてベータマックスが規格競争に負けたときに、「技術的に優位であっても勝てるとは限らない」ということを骨身にしみて学んだはずなんです。でも、だんだんと機能競争体質に戻ってしまった。
イノベーションが生まれるためには「意思決定力=決める力」がものすごく大事なんですが、いまメーカーは誰も決断することが出来ていない。
――開発責任者も、経営層も?
前刀: そうですね。メーカーの人間に「じゃあ、どうやって決めてるの?」って聞いたことがあるんですが、「時間が決めている」という返事が返ってくる(笑)。ボーナス商戦など、流通や家電量販店が求める期限が迫ってきて、「仕方がない、これで行くか……」と。
アップルは違います。ジョブズが気に入らなければ発売時期は延びる――というか商戦なんか無視している。「良いモノが出来たときに、欲しい人は買ってください」というスタンスです。
確かに、これまでは量販店とメーカーは二人三脚で発展してきました。量販店の求めに応じて製品を出すことでメーカーも潤ってきた。でも、両者が厳しい状況にあるなか、もはやそういった関係は維持できないはずです。
もっと言えば、そういう環境に甘んじてきた日本の消費者の責任もそこにはあります。「売れているものが欲しい、それを選んでいれば安心だから」という姿勢では、販売店も「できるだけ多くのニーズに応える製品」を求めることになります。そんな中ではメーカーも思い切ったイノベーションに取り組む必要が薄かったわけです。
――なるほど。メーカーだけでなく小売や消費者も含めたバリューチェーンそのものがイノベーションを生みにくい体質になってしまっていたということですね。
前刀氏: そうです。今回の本の中でも「日本人は自分の価値尺度を持つべきだ」と繰り返し強調していますが、そこから変わらなければいけない。メーカーの社員が自信を持って、自分が愛せる製品が世に送り出されなければならない。
でも、今そうやって製品を送り出せている人がどれくらいいるのか? 実際、iPod miniを託されたとき、アップルジャパンのスタッフですら「これは日本では売れない」と信じて疑わなかったんです。私はまず社内の意識改革から取り組まなければなりませんでした――。
次回は、アップルジャパン内ですら期待されていなかったiPod miniが当時全盛だったMDプレイヤーに打ち勝つに至った経緯をたどりながら、なぜソニーは「ウォークマン」で巻き返すことができなかったのか? そして、絶好調だったアップルから何故前刀氏は離れたのかについて聞く。
著者紹介:まつもとあつし
ジャーナリスト・プロデューサー。ASCII.jpにて「メディア維新を行く」、ダ・ヴィンチ電子部にて「電子書籍最前線」連載中。著書に『スマートデバイスが生む商機』(インプレスジャパン)『生き残るメディア死ぬメディア』(アスキー新書)、『できるポケット+ Gmail 改訂版』(インプレスジャパン)など。取材・執筆と並行して東京大学大学院博士課程でコンテンツやメディアの学際研究を進めている。DCM(デジタルコンテンツマネジメント)修士。2011年9月28日にスマートフォンやタブレット、Evernoteなどのクラウドサービスを使った読書法についての書籍『スマート読書入門』も発売。
- Twitter:@a_matsumoto
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