本屋が私を育ててくれた――小さなアドバイスで恩返し:郷好文の“うふふ”マーケティング(3/3 ページ)
大手書店には品ぞろえで負け、雑誌はコンビニへ流れ、便利さでネットに負ける町の小さな本屋さん。業界の取り組みを整理し「復活のアイデア」を考えてみたい。
立ち寄りたくなる小さな本屋さん
小さな本屋の問題は「売る」前に「寄る」なのである。寄る理由が少ない。どうしても立ち寄りたくなる「磁石」が足りない。
磁石は何だろうか? 基本は「街の読者層」を知ることだ。私の住む町も高齢化が進んでいる。ジジババにやさしい本屋もいい。リーディンググラスをお貸しする。医者の本、健康の本、介護の本の品ぞろえを増やす。生徒がいっぱいのフラメンコ教室もある。ならばダンスの本の品ぞろえを厚くするのもいい。帰国子女や海外赴任経験者が多いらしいので、語学や海外留学の本を増やしてもいい。
小さくてもいいので「寄り合いスペース」があるといい。そのスペースには無線インターネットを完備し、AmazonやiBooks、ネットストアや青空文庫にも接続できる。椅子とテーブルを置いてタダで電子読書ができる。
原価提供の「簡易エスプレッソカフェ」にしてもいい。その場所でイベントもできる。絵本の読み聞かせ、開業医の健康トーク、書家のペン字レッスン……。そこには地域のイベントやお店の情報が一覧できる掲示板、チラシ置き場を備えたらどうだろうか。
本を軸にするサービスの提供。電子書籍の自炊が流行しているが、あえて紙の本にこだわる「高級自炊サービス」はどうだろう。大切な本を特注の手製本で豪華な装丁に生まれ変わらせる。読書家のお客さんには「蔵書管理サービス」。ご自宅に出向いてあふれる本のリスト制作、売れる本、売れない本の指南もできればいい。
「こんなときにはこんな本を読みなさい」と教えてくれる本屋さんがほしい。「肉親を亡くしたときに読んで楽になる本」を教えてくれたら、「本のコンシェルジュ」のことは一生忘れない。
ひとりの本好きからひとこと。「本が好きじゃないなら辞めなさい」。惚れない商品は売れない。人の人生が始まる、変える――そんな商売、ほかにはないのだから。
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