ユーロ圏の不振は経済だけの問題ではない:藤田正美の時事日想(2/2 ページ)
ユーロ圏の不振にたいして、EUメンバーの英国は脱退を視野に入れ始めた。ユーロ圏からの脱退をほのめかす国もある。これが現実のものとなったとき、世界経済はどうなってしまうのか。
ユーロ圏の不振は経済だけの問題ではない
ドイツに風当たりが強いのはそれだけではない。ユーロ圏17カ国のうち最大の経済大国であるドイツは、ユーロという固定相場の恩恵を享受し、域内貿易で稼いできた。本来、ドイツの貿易黒字が膨張すればマルクの相場が上がって市場で調整されるだろうが、域内貿易に関してはいくら黒字が増えてもドイツの競争力に歯止めが掛けられることはない。その意味では、健全なドイツの財政は、ユーロ圏諸国の犠牲の上に成り立っていると言われても仕方がない。
逆にギリシャやスペインなどにしてみれば、競争力が落ちて国際収支が赤字になっても、通貨切り下げという手段が残されていない。国際収支が赤字になれば財政赤字が膨らみ、それをファイナンスするために公的債務が膨らむという負のスパイラルに陥ってしまう。つまり、固定相場の経済圏の中で、勝ち組と負け組も「固定」されてしまうという形である。だからこそ、「富の再分配」機構が必要だという議論が出てくる。
もちろんドイツなどの勝ち組は、この再分配機構(トランスファーユニオン)には反対だ。それよりも、各国がそもそもの取り決めどおりに財政基準のルールを守るべきだと主張する。いったん各国がその基準まで立ち戻らなければ、ユーロ圏を先に進めて、財政同盟(フィスカルユニオン)の議論を持ち出すことすらできないかもしれない。
その意味では、ユーロ圏の不振は経済だけの問題ではない。政治も含めて将来的にユーロ圏の姿をどう描くに大きく関わってくるだろう。ユーロ圏ではないものの、EUのメンバーである英国は、EUからの脱退も視野に入っている。ユーロ圏からの脱退をほのめかす国もある。もしもこうしたことが現実のものになれば、世界経済にその影響がどう及ぶかは誰にも分からない。ユーロ圏そのものが人類史上初の試みであるから、無理もない。
ドイツがあくまでも財政緊縮による健全化を主張し続けるのか、それとも妥協の道を探ってくるのか。秋に控える総選挙での権力基盤を固めたいメルケル首相は、経済のスローダウンで人気が落ちることを恐れて、やや手綱を緩める可能性もある。ドイツの第2四半期の成長率がどのようになるか、分岐点はそのあたりになりそうだ。
そして欧州がもし再び混乱に陥れば、よほどしっかりした「第三の矢」でもない限り、日本の回復期待も吹き飛ばされてしまうかもしれない。その意味で、6月は日本にとって正念場とも言えるだろう。
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