米国のシェール革命によって揺れる米中露のバランス:藤田正美の時事日想(2/2 ページ)
8時間にも及んだ米中首脳会談に、心穏やかではいられない国がいくつかある。米国のシェールガス革命による影響が、巡り巡って南シナ海に火種をもたらすかもしれない。
資源国大国ロシアの地位が揺らいでいる
もうひとつ心穏やかではない国はロシアだ。かつてのソ連は、米国に対抗して世界を分け合った国だった。今やその面影はほとんどないばかりか、ソ連だった国がどんどん西側に「寝返って」いる。しかも経済的には資源頼み。資源価格が上昇しているときにはいいが、将来的に価格が上昇するという見通しにはない。そして昇り龍、中国と長い国境線を接している。人口は中国の10分の1しかないし、工業化はいっこうに進まない。このままいけば、龍に呑み込まれる熊という構図になってしまう。
しかもまずいことに資源国大国ロシアの地位が揺らいでいる。最大の要因は米国のシェール革命だ。要するに頁岩(けつがん)の層からガスやオイルを取り出す新しい技術によって、米国が資源の輸入国から一躍、輸出国へと変貌するということだ(日本が米国からガスを買えることになり、調達先の多様化がようやく進み始めた)。
このため、米国へ輸出されていたガスが欧州に回っている。しかも値段が安くなってきた。欧州は、ロシアとウクライナのガス紛争のあおりを食って、ロシアからのガスの供給が止まったことがあり、ロシア依存が高まることを警戒するようになっていた。それだけに中東からガスが回ってくるのは「渡りに舟」。
そうするとロシアは欧州にこれ以上売れないため、生産したガスを東つまりアジアで売らなければならない。その売り先は、中国と日本、韓国である。ロシアがアジアで市場を確保できないと、プーチン大統領にとっては国家財政が苦しくなると同時に、支持率がさらに低下する。長期独裁政権によって、強いロシアを復活させるというプーチン大統領のシナリオが大幅に狂うのである。
アジアに売るといっても、中国に「独占的に」買われるのもロシアにとっては都合がよくない。それは価格決定権を中国側に奪われかねないからだ。世界経済の成長センターとなる東南アジアもロシアにとって期待できる市場だが、そこにガスを運ぶためには、南シナ海を通らなければならない。その南シナ海は、まさに中国が「覇権」を主張しつつある場所だ。つまり中国の台頭は、東アジアにおけるロシアの活動の障害ともなりかねない。その意味で、米国と中国というG2が手を組むことは、ロシアにとっては望ましくないということだ。
ただ中国がどこまで経済的にも軍事的にも台頭するか、その見通しが必ずしもはっきりしているわけではない。少子化や高齢化、それに伴う社会保障の増加、国内の東西格差、汚職、国有企業の整理、戸籍格差など難しい問題を抱えている。そういった国内の矛盾を解消しつつ、果たして西側諸国のような経済発展ができるのかどうか。それはまだ不透明だ。国内の不満が政治的な大変動につながる可能性も否定できない。そうなったら、すべてのバランスが変わってくるだろう。
今後の東アジアはかじ取りが難しい。米中サミットはその難しさを浮き彫りにしたのかもしれない。
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