アップルの聴き放題サービス「iTunes Radio」は、音楽制作者を殺すのか(4/4 ページ)
米アップルが発表した聴き放題の無料ストリーミングサービス「iTunes Radio」。海外向けに音楽配信事業を行っている山崎潤一郎氏に本音を聞いた。
ダウンロード購入に直結したiTunes Radioの巧みな戦略
さて、iTunes Radioについて考えてみよう。「音楽との出会い」という部分に注目するとこのサービスへの期待は大きい。SpotifyやPandoraとは異なり、iTunes Storeへ直結しているからだ。デベロッパー契約の守秘義務があるので、iPhoneの「ミュージック」アプリ内の「ラジオ」画面をお見せすることができないのが残念だが、アルバムのカバーが映った再生画面の右上にフラットデザイン化された購入ボタンが表示されている。
曲が始まり、イントロでかっこいいギターフレーズでも流れて来ようものなら、「おっ!」などと、衝動的にタップしてしまう。実際、「価格が明記された購入ボタン」→「BUY」ボタン→「パスワード入力」のわずか3ステップで、曲のイントロが終わるか終わらないかのうちに、購入できてしまう。
今、この原稿を書きながらiTunes Radioを流しているのだが、あれよあれよと4曲を衝動的に購入してしまった。ちなみに、まだ開発者向けの試験期間中のためか長時間聴いていると同じアルバムからの曲がかかることも珍しくない。一部のメジャーレーベルとの契約が遅れたこともその要因だろう。
前述のようにSpotifyやPandoraでも、出会いから購入へといたることはあるが、それなりに手間がかかる。Spotifyの「Radio」画面には、iTunes Storeなどのダウンロードサービスへ移動するボタンはどこにもない。
筆者の場合、曲名やアーティスト名を自分あてにメッセージするか、Facebookにシェアするなどして、後から購入している。ただ、曲と出会ったその瞬間は、「欲しいゾ!」とエモーショナルに突き動かされても、後から購入する段になるとすっかり冷め切って「やっぱりやめた」ということもしばしばだ。そういった意味では、iTunes Radioの「その場で買わせる」戦略は、商売としては正しいし、ダウンロード販売に依存する身としては大いに期待もする。
冒頭に示した収益の内訳を見れば分かるように、iTunes Storeからの収入が9割近くを占めている弊社海外配信事業の現状で、iTunes Radioの「ダウンロードへの送客」戦略が失敗し、Spotifyのような数字になってしまったら、それはもう最悪だ。首でもくくりたくなる。
ただ、弊社の例は、弱小ゆえのアップル依存であり、そうでない音楽制作者もたくさんいる。名前は出せないがある有名プロデューサーの中には、「ストリーミングが音楽を殺してしまう」と危機感を抱き、逆にSpotifyをCD、配信、ライブやイベントへの集客/送客のプラットフォームとして利用してやろうと、独自のインフラ作りに奔走(ほんそう)している例もある。今後、そのような「黒船」に対抗する試みが、日本の音楽業界からどんどん登場することを願っている。
日本でのサービスインは未定ながら、iTunes Radioはいずれ上陸するだろう。また、SpotifyやGooglePlay Music All Accessもこの世界第2位の音楽大国(参照リンク)を放っておくはずはない。「無料で聴き放題」という破壊的イノベーションが音楽にもたらすものは、真の破壊なのか、それともネット時代に則した音楽ビジネスの新しい光なのか。iTunes Radioが1つの試金石になることは間違いない。
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