アップルのジレンマ がんばれNEC:INSIGHT NOW!
iPhoneで成長してきた米アップルが、新興国市場でつまずいています。イノベーションのジレンマに入っているのではないでしょうか。日本の電機メーカーは起死回生のチャンスととらまえて我慢の時期です。
著者プロフィール:渡部弘毅(わたなべ・ひろき)
経営コンサルティングのISラボ代表。日本ユニバック(現日本ユニシス)、日本アイ・ビー・エムなどを経て2012年5月、ISラボ設立。経営戦略、経営企画およびCRM領域にてコンサルティング活動中。ワクコンサルティングのパートナーコンサルタントとしても活動する。
業界をリードするような優良企業が行う正しい経営判断が、破壊的技術が作り出す新しい成長市場への参入機会を遅らせ、その地位を後発企業に取って代わられる現象のことを「イノベーションのジレンマ」といいます。
iPhoneで成長してきた米アップルが、新興国市場でつまずいています。2013年4〜6月は中国での売上高が前年比で14%減と急速に落ち込みました。インドでは2013年1〜3月期の販売台数でアップルが6位以下に転落したとみられ、ロシアではトップのモバイルテレシステムズなど三大通信会社が、アップルとの販売契約を更新しない見通しになりました。スマホの需要拡大が際立っているのは中国等の新興国ですが、その新興国でつまずいているということになります。
しかし、アップルの2013年4〜6月期の純利益は69億ドル(約6900億円)と前年同期比22%減とはいえ利益率はなお高く、米国や日本ではまだまだ高い支持を得ており、利益の源泉となっています。また、クックCEOは「(iPhoneなど価格が高い)ハイエンドの市場が飽和したとは思わない」と断言しています。
イノベーションのジレンマでいうところの破壊的技術とは、必ずしも最先端の技術ということではありません。優れた特色を持つ商品を持つがゆえに、その特色を改良することのみに目を奪われ、顧客の別の需要に目が届かず、既存の商品より劣るが新たな特色を持つ商品を売り出し始めた新興企業に大きく遅れを取ってしまうということです。
まさしく、新興国でのアップルの置かれた状況です。アップルは今秋から来年にかけて新製品群を投入し、スマホやタブレット以外に腕時計型端末など新分野を開拓する製品・サービスを発表すると予想されています。次々と新技術で新市場を切り開いていくのか、iPhoneの高いブランド力で高収益を維持することに固執してブラックベリーのようになるのか、アップルの経営戦略は正念場を迎えています。
一方、NECが中国レノボ・グループと交渉していた携帯電話事業の統合を見送り、スマートフォンから撤退する見通しとなりました。携帯電話メーカーと一体となって巨大市場を育ててきたかつての蜜月関係からドコモの戦略転換により携帯事業の大幅縮小を余儀なくされるNECの姿は「ドコモファミリー」の終焉(しゅうえん)を象徴しています。
しかし、これは前向きに考えてスマホの次世代を狙うべきです。まさしくこの市場はイノベーションのジレンマが最も起こりやすい市場なのです。イノベーションのジレンマを起こしそうなアップルに対して起死回生を狙えるチャンスが必ず到来します。
ここはいったん撤退して、破壊的イノベーションに向けてじっと我慢の時です。NECに限らず、日本の電機メーカーの底力を見せてほしいところです。がんばれ!! ニッポン!!(渡部弘毅)
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