ヘンテコ英語で逆効果!? 企業スローガンはリスクがいっぱい:ビジネス英語の歩き方(3/3 ページ)
その企業の事業内容を分かりやすく、そして簡潔に表現するスローガン。日本の多くの企業では英語のスローガンが使われていますが、外国人の視点から読んでみるとどういう印象を抱くのでしょうか?
抽象的過ぎる金融機関のスローガン
さて日本の銀行、保険、証券といった金融関係の企業は、どうもスローガンがはっきりしません。3大メガバンクグループは、それぞれ次のようなスローガンを掲げていますが、どれも抽象的過ぎてメッセージが伝わってきません。
- 三菱UFJフィナンシャルグループ:Quality for you
- 三井住友フィナンシャルグループ:LEAD THE VALUE
- みずほフィナンシャルグループ:Building the future with you
企業スローガンではないのですが、かつて三井住友グループは、オンラインバンキングの名称として「one’s direct」を使っていました。おそらく一人ひとりの顧客に銀行サービスをオンラインで提供しますという意味だったものと思われますが、この場合のoneは「どこかのだれかの」という意味になってしまいます。「どこかのだれかのダイレクト」というわけです。
この名称は住友銀行とさくら銀行(三井グループ)の合併によって発足した三井住友銀行の新たなサービスブランドとしてスタートしましたが、さすがに7年ほどして「SMBCダイレクト」に名称が変わりました。2008年10月6日に特に理由を告げることなく変更された(参照リンク)のですが、それまではこの「One'sダイレクト」という文字を見るたび心配になったものです。
おそらく1990年代に米国で非常に好評を博したディーンウィッター(Dean Witter)という金融機関の「One investor at a time.」というスローガンが影響したのかもしれません。
もともとは、「We measure success one investor at a time.(私たちは、一人ひとりのインベスターを基準に成功というものを考えます)」というスローガンがあり、その中のOneを使ったものと思われます。ディーンウィッタ―が言いたかったのは、「会社全体が仮に成功していても、個々人のインベスターがうまくいっているかどうかが、成功を測る本当のカギなのです」ということで、スローガンとしては非常にインパクトのあるものでした。
とはいえ、このかつての名門ディーンウィッタ―も2000年代の金融再編に飲み込まれ、いまでは存在しない社名になってしまいました。
最後にインテルの話を。「Transforming lives for a better future.」というのが、同社の正式スローガンになっているのですが、あまりインパクトがありません。「人々の生活をより良い未来に向けて変えていく」というメッセージですが、これならキヤノンが国内で使っている「Make it possible with Canon.」(最近は全部小文字にしているのが目立ちますが)のほうがいいと思います。
しかしインテルのキャッチコピー「Intel inside」は何度聞いても見事だと思います。実にシンプルで、名作といってもいいのではないでしょうか。ほとんどのPCに入っているインテルの半導体。シンプルなコピーの中に、何世代にもわたってコンピュータ業界を牛耳って来た企業の自信がみなぎっています。しかも日本語では「インテル、入ってる」と、見事に脚韻を踏んでいます。座布団2枚!
著者プロフィール:河口鴻三(かわぐち・こうぞう)
1947年、山梨県生まれ。一橋大学社会学部卒業、スタンフォード大学コミュニケーション学部修士課程修了。日本と米国で、出版に従事。カリフォルニアとニューヨークに合計12年滞在。講談社アメリカ副社長として『Having Our Say』など240冊の英文書を刊行。2000年に帰国。現在は、外資系経営コンサルティング会社でマーケティング担当プリンシパル。異文化経営学会、日本エッセイストクラブ会員。
主な著書に『和製英語が役に立つ』(文春新書)、『外資で働くためのキャリアアップ英語術』(日本経済新聞社)がある。
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