天性の素質を生かす“正しい技術”
もう何度もいろんなところで話しているが、彼の最大の欠点は構えた時にピッチャー側の右足を上げ過ぎること。なぜ駄目なのか。それは打つ時に右足を上下させることで、頭が動き、目線が上下に動いてしまうからだ。視点が上下すれば、縦の変化に距離感が合わなくなり、結果、凡打になってしまう。
長嶋さんも私と同じ意見だった。今のままなら2割6、7分の6番バッターになってしまう。たまにはホームラン王を獲るかもしれないが、まあ1、2回程度。でも彼の素質を考えたら、巨人の4番として三冠王を3、4回は獲らせたい。3割7、8分は打って、60本ぐらいホームランをかっ飛ばす。世界の王貞治を超えるバッターになってほしいから、とにかく右足の上下動を直したかった。だからキャンプで徹底的に「すり足打法」に改造しようと教えたのだが、これがなかなか上手くいかなかった。
そもそも彼が、構えた時に右足を上げるのは、ボールを遠くに飛ばそうと力いっぱいスイングしようとするからだ。多くのバッターがそう思って足を上げるが、そもそも松井は足を上げなくてもボールを遠くへ飛ばすだけのパワーと素質を持っている。入団したとき、彼のフリーバッティングをキャンプで見たが、ものスゴい打球をかっ飛ばしていた。こんなヤツがいたのかと思うくらいだった。それもまた天性の素質なのだ。いくら飛ばそうと思ったって、普通はなかなかあんなに打球を飛ばすことはできない。だから、これ以上、遠くに飛ばそうと右足を上げる必要はないと思った。
結局、松井は「すり足打法」を身に付けることができなかった。一時、長嶋監督の指導もあって右足の上下動が小さくなり、ホームラン王を3回獲ったが、米国に行ってまた元に戻ってしまった。
彼が正しい技術を身に付けていたらどんなことになっていたか――。今でも夢に見るくらい、もったいなかったと思う。きっと日本でもメジャーでも、球史に残る偉大な記録を残したに違いない。人の成長を考えたとき、正しい技術というのはそれほどに重要な要素なのだ。
関連記事
- 「一流」になるためには、3つの力が必要
毎年プロ野球には、セ・パ両リーグ12球団合わせて80人前後の新人選手がドラフト会議で指名され、入団してくる。全国から集まった野球の上手い選手同士で、一軍枠をめぐってさらに厳しい競争をくぐり抜けなければいけない。 - 松坂大輔がどんなに落ちぶれても「メジャー」にこだわる3つの理由
2013年8月、メジャーリーガー・松坂大輔のニュースが久しぶりに話題となった。自ら3Aを退団し、登板機会を求めてニューヨーク・メッツへと移籍したのだ。 - 灼熱の甲子園に似合うのは「完投の美学」? それとも「球数制限」?
必死に白球を追う高校球児の姿は素晴らしい。だが、気温35度に迫るような炎天下、1試合150球近くの「投げ込み」は野球人としてのキャリアにどう影響するのだろうか? - ツイートは災い元!? プロ野球選手の舌禍今昔物語
東京・三鷹で発生した痛ましい女子高校生殺害事件。あるプロ野球選手がこの被害者を侮辱したともとられかねないツイートを行って謹慎中だ。日米球界でこの手の舌禍騒動は枚挙にいとまがない。 - 本田圭佑が所属するCSKAモスクワは「世界で一番脱出が難しいクラブ」
今夏のACミランへの移籍が破談となった本田圭佑。2014年1月には4年契約でACミランに行くとみられていたのだが、どうやらこれも怪しくなってきたようだ。 - メジャーリーグでMVP級の大活躍――上原浩治はなぜ自らを「雑草」と呼ぶのか?
メジャー5年目となった上原は、レッドソックスのクローザーとして圧倒的な信頼を勝ち得ている。チームはア・リーグ東地区を6年ぶりに制した。だが、海を渡るまでの野球人生は決してバラ色とは言い難かった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.