鮮魚流通業界のAmazonを目指す、八面六臂の挑戦:これからの働き方、新時代のリーダー(3/3 ページ)
「ITを使って、日本の魚食文化を活性化する。もっとおいしい魚を食べてほしい」――鮮魚流通ベンチャー、八面六臂(はちめんろっぴ)の松田雅也社長の思いだ。
「お客さん目線」がないプレイヤーは去れ
岡田: 八面六臂は、ITの力を使って鮮魚流通のあり方を変えようとしています。いわゆる「中抜き」による、鮮魚価格の低価格化を目指しているのでしょうか?
松田: 違います。八面六臂が目指しているのは、消費者に新鮮でおいしい魚を、最適価格で提供することです。常に「お客さん目線」でビジネスを考えています。市場を通さず、漁師と直接取引もしていますが、その場合、漁師は市場に出すよりも高い値段で売れますし、店舗は安い値段で買えます。
中間流通部分で発生する無駄なコストを削減すれば、価格を安くできるかもしれません。でも、「少しでも仕入れを安く」「利益を最大化」しようと数字ばかりを追求する飲食フランチャイズのビジネスモデルが、日本の良質な魚食文化を破壊してしまったとも思っています。
漁協や産地市場、築地市場は良好な取引相手です。既存の流通構造が悪いわけではなく、むしろしっかりと出来上がったルールの中で流通できるという点で素晴らしいとも思っていますが、問題は、時代の要請にこたえられない部分が出始めていることなのです。
岡田: それは、昔ながらのやり方、右から左に商品を流すだけでいいのだ、というビジネスが破たんしつつある、ということでしょうか?
松田: 時代や環境が変化しても、魚をほしいという人はまだまだたくさんいます。ですが、流通業界の多くは零細企業であったり、労働力の高齢化が進んでいたりという課題があります。営業をしないとか、顧客ニーズを把握しないといった会社は多いんですよ。
私たちは、鮮魚業界のAmazonを目指すともいっています。Amazonの登場によって、市井の本屋が淘汰されはじめています。しかし、そこにしかない品ぞろえがあるとか、店員が作ったPOPなどでお客さんの潜在ニーズを掘り起こしているといった「付加価値」を生み出すことで生き残っている本屋もあります。
既存の鮮魚流通網はこれからも使われ続けていくと思いますが、その中で合理性による選別が発生することは問題ないと思っています。むしろ、流通業において付加価値を生み出さないプレイヤーは去るべきだ、と。
岡田さんは、鮮魚における「流通過疎地域」ってご存じですか? 箱根や北関東の温泉宿で出てくる魚は、なぜおいしくないのか、がヒントです。(後編に続く)
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