日本の道路インフラはもう“限界”――道路の新設を止め、維持管理を優先せよ:INSIGHT NOW!(2/2 ページ)
日本の道路インフラはこれから危機的な状況を迎えようとしています。既存道路の維持だけでも膨大なコストがかかり、今の予算ではとても面倒を見切れません。それでも新設したい自治体は、国に頼らない方法を模索すべきです。
道路の新設を止め、維持に注力せよ
維持管理責任者という観点でいえば、高速道路を含む有料道路は各道路事業者が、国道は国交省の地方整備局が、それぞれ専門家を擁してメンテナンスをしているので、コスト高以外の問題はあまりないと考えられます。問題は県道(都道府県)や一般道路(郡市町村)のレベルで、特に後者です。先に触れたように、道路インフラに関する専門的知識を持ったスタッフもおらず、予算も不足しているからです。
道路インフラも通常の建築物と同様、適切なタイミングでの補修ができずに先延ばしすると、後々大規模な補修・作り直しが必要となり、かえってコスト増につながりやすいです。ましてや破損が引き起こす事故や渋滞、災害による被害増大のリスクも高まります。1980年代、同じような道路インフラの老朽化に直面した米国では、橋が落ちたり、道路が陥没したりといった事故が頻発しました。日本でもそうした事態に直面しつつあるのです。
社会保障費がブラックホールのように、税金による歳入を飲み込もうとする現在、道路関連予算の総額には余裕がなく、建設・維持コストがともに高騰しつつあることを考慮すると、道路の新設は極力抑制し、既存道路の維持を優先することが、政策方針として望ましいでしょう。ましてや、道路や橋は一旦作ってしまえば、後々のメンテナンスコストがかさみますし、建物のように途中で使用を中止することが難しい代物です。
そもそも、人口縮小時代を迎えたニッポンで、道路の新設が必要なケースはまれなはず。「国土強靱化」という“大義名分”があろうと、公共事業を景気のカンフル剤として続けることは無駄だと、われわれは数年前に起きた自民から民主への政権交代時に学んだはずです。
交通量が多くもなく、急増してもいない状況下でも道路を新設したい自治体は、国による建設や補助金をあてにせず、自らその建設コストをほぼ全額負担するか、道路通行の有料化とPFI(Private Finance Initiative、民間に施設整備と公共サービスの提供を委ねる手法)を併用して、利用者から回収可能な金額の範囲で行うべきです。実際にそういった手法で新たに建設できる道路は少ないでしょう。そうすれば、われわれの社会にとって“身の丈に合った”道路インフラが残るはずです。(日沖博道)
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