都心〜羽田「JR東日本の羽田新線」、新案で再浮上する「やっかいな問題」:杉山淳一の時事日想(6/6 ページ)
都心と羽田空港を結ぶ、JR東日本の「羽田空港アクセス線構想の概要」が発表された。予想をはるかに超えた驚きの内容だった。「JRで直接羽田へ」を歓迎する人も多いが、ある「やっかいな問題」も抱えている。それは「りんかい線」。JR東がりんかい線を買収するという報道も出ている。
ところで、運賃に関しては、もっとやっかいな問題を抱えそうだ。それは「りんかい線を介した場合のJR東日本の運賃計算方法」である。羽田空港で乗降する場合は問題ない。では、新宿から羽田空港へ向かう場合「りんかい線経由だと高いから」と、東京駅経由で羽田アクセス線を利用した場合はどうか。新宿駅―東京駅間は10.3キロメートルだ。東京駅―羽田空港駅が16キロメートルとすれば、東京駅経由は26.3キロメートル。JR東日本だけの運賃で470円。直通列車の約半分だ。
羽田アクセス線は上野東京ラインと接続され、北関東からも便利になる。では、大宮駅でSuicaの改札を通り、羽田空港駅でSuicaをタッチした場合、新宿(りんかい線)経由と東京駅経由、どちらの料金が適用されるだろうか。どこで判断するか。こちらは本コラムの5月16日掲載号『線路はつながっていても――京葉線とりんかい線の直通運転はなぜ難しい?』と同じ問題が起きる。
もっとも簡単な解決方法は、羽田アクセス線をJR東日本直営とせず、東京モノレールのような子会社とし、運賃制度を切り離す。いっそ、東京モノレールの管轄とすればいい。東京モノレールから羽田アクセス線に利用者が移行しても、すべて東京モノレールの収入になる。東京都が建設費を公的負担ではなく、出資として参加しやすくなる。
もっとも、これは羽田空港向けの解決策であって、りんかい線と京葉線の直通運転を実施するための策にはならない。そうなると、やはり、りんかい線を運営する東京臨海高速鉄道をJR東日本が買収し、路線はJR東日本直営としたい。JR東日本は東京都から株を買い取り、東京都は株の売却益を羽田アクセス線の建設費負担分に充当してはどうだろうか。
鉄道ファン的なお楽しみ要素としては、今後、JR東日本は羽田アクセス線については「成田エクスプレス」のように、関東各地から「羽田エクスプレス」を運行するかもしれない。そんな柔軟な運行を実現するためにも、りんかい線運賃問題を本気で解決する時が近づいている。
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