「シリア日本人誘拐」の裏にある、テロ組織の“身代金ビジネス”:伊吹太歩の時事日想(3/4 ページ)
シリア北部で日本人が、イスラム教過激派組織に誘拐されたことが判明した。欧米でもジャーナリストや技師が過激派組織に誘拐されているが、その裏にはテロ組織の資金源となる、巨額の「身代金ビジネス」があるのだ。
50人で130億円、ISISの身代金ビジネス
2014年に入ってからもスペインのジャーナリスト3人が釈放されたり、4人のフランス人ジャーナリストが無事に帰国したが、彼らは政府が身代金を払ったことで、生きたまま首を切られることなく自由になれた。
ちなみに分かっているだけで、これまでにフランスは身代金として5810万ドル(約60億円)、カタールとオマーンが2040万ドル(約21億円)、スイスが1240万ドル(約13億円)、スペインが1100万ドル(約11億円)、オーストリアが320万ドル(約3億3000万円)をテロ組織に支払い、自国民を救っている。
身代金を払う欧州の国々はもちろん「カネを払います」とは公言しないし、支払ったことも公にはしない。フランスに至っては、フランスの原子力技師4人が誘拐され、3年後の2013年に釈放されたケースがあったが、外相はその際に「身代金を支払わないというポリシーは変わっていない」とだけ話した。しかしその後、実際には2800万ドル(約29億円)を支払っていたことが暴露された。
身代金支払いを公にできないのは、米政府の主張通り、身代金がイスラム過激派組織の資金源になっている事実があるからだ。報じられるところでは、過去5年だけをみても、イスラム過激派組織が拘束した外国人は50人以上になり、身代金で稼いだ額は少なくとも1億2500万ドル(約130億円)に上るという。言うまでもなく、こうした身代金のほとんどは欧州諸国によって支払われたものであり、テロ組織の資金源になっていると言われる。
かつてニューヨーク・タイムズ紙の米国人記者がアフガニスタンで拘束されて命懸けの脱走に成功したというケースがあるが、脱走できるケースは非常にまれであり、さらに世界最強の米軍の特殊部隊をもってしても、救出作戦で誘拐された人が助けられたケースは少ない。
今回のフォーリー氏のケースでも、米高官は、オバマ大統領の承認で米特殊部隊が極秘作戦で救出を試みたと語っている。「不運なことに、救出を試みた場所に拘束されている人たちがおらず、作戦は成功しなかった」と話しており、十分な情報収集もできていなかったことを認めた。
つまり、米国人はテロリストに誘拐、拘束されればほぼ命がないということになる。フォーリー氏のケースで米国民が不快感を示す背景には、救出もできず、身代金も払わない政府の無策ぶりに向かっている。
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