「シリア日本人誘拐」の裏にある、テロ組織の“身代金ビジネス”:伊吹太歩の時事日想(4/4 ページ)
シリア北部で日本人が、イスラム教過激派組織に誘拐されたことが判明した。欧米でもジャーナリストや技師が過激派組織に誘拐されているが、その裏にはテロ組織の資金源となる、巨額の「身代金ビジネス」があるのだ。
湯川氏の交渉は難航する可能性が高い
とはいえ、最も責められるべきはISISなどの過激派組織である。ISISやアルカイダ系の組織は、イスラム原理主義やシャリーア(イスラム法)などと大義を挙げながら、結局のところは身代金ビジネスを行っているに過ぎない。
もちろん、それを資金としてさらなる虐殺・恐怖支配を行っているわけだが、先日話を聞いたあるサウジアラビアのジャーナリストは「イスラムでは人を殺すこと自体が許されていない。ああいう輩はイスラム教徒でも何でもない」と憤っていた。
では、今回日本人で拘束された湯川氏のケースはどうだろうか。彼のケースでは、日本政府が身代金を払う意思を伝えても、彼が武器を所持していた点が大きな障害になる可能性がある。彼は米国や欧州出身で拘束された人たち(ジャーナリストや技師たち)とは異なり、過激派組織側から、彼らと敵対するFSA(自由シリア軍)の戦闘員として戦っていたと思われているからだ。
湯川氏が拘束された際のものとみられる映像では、こんな場面がある。過激派側が「オレに嘘をつくな、お前は日本人ではない。どこ出身だ」「FSA(自由シリア軍)の兵士か? UK(イギリス)の兵士か?」と問い詰めている。中東地域の人たちには、日本人が武器を持って自分たちと戦うなんて想像もできなかったのだろう。
こうしたことから、身代金交渉は難航すると思われる。まず、湯川氏自体が戦闘員ではないことを証明し、敵対する組織のメンバーではないことを理解させる必要があるためだ。一応、カネがあり、一般的に害が少ないとみられている日本の国民ということから、身代金を上乗せすることで釈放になる可能性もないことはない。
もちろん湯川氏には無事に帰国してほしい。だが、身代金をテロ組織に払うにも米国からの「支払わないように」という要請が入る事態は考えられるし、身代金を支払えば、かつてのイラクで日本人が誘拐された際に高まった「自己責任論」のように、国内で議論を巻き起こす可能性もある。
現在、隣国ヨルダンに移動している在シリア日本大使館が情報収集をしているようだが、すぐに動きはないと思われる。今後も湯川氏の行方からは目が離せない。
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