国内の認知度がほぼ100%――1億人が盛り上がるハロウィン:なぜ人は“動く”のか(2/2 ページ)
1億人ともなると、ほぼ日本の人口に匹敵する。「国民的人気」と呼ぶのにふさわしいような一大ムーブメントを生み出すには、どのような条件が求められるのか。さっそく事例を見ていこう。
Q:「1000万人しか動かせない」と「1億人動かせる」の違いは?
田端: 1000万人も1億人も、いざ動かそうとすると途方もない人数ですが、「1000万人どまり」と「1億人規模も狙える」の違いは確実にあります。
本田: そうそう! ここまで出てきたいくつかの「人が動く」要件が複雑に絡み合っている。例えば、カーニバル感。誰もがワーッと熱に浮かされたように夢中になれる。さらにハロウィンには、1000万人の項目で登場した連帯感やアイコン化など、さまざまな要素が有機的に加わる。1億人が動くには、人間に深く刺さる複数の要素が必要になるわけですね。
田端: そのうえで、ダイナミズムも必要になる。ハロウィンには明確なピークがある。ブームの規模でいえば、ハロウィンよりランニングのほうが大きいかもしれないけど、周囲に与えるインパクトという意味では、メリハリがあったほうが伝播力は強くなりますよね。
本田: 「今夜はハロウィンだ!」と思うからこそ、渋谷のスクランブル交差点でも大騒ぎする。
田端: 皇居のまわりはだいたいいつでも誰かしら走ってる。その意味ではランニングはメリハリやインパクトは少し薄い。よくも悪くも光景として溶け込んでしまっている。
本田: ハロウィンやサッカーのワールドカップは多少のやんちゃをしても「まあ、しょうがない」と大目に見てもらいやすいから、安心してはしゃぐことができる。
田端: 絵作りがしやすいからニュースにもなる。その意味では、ワールドカップと似ていますね。たまたまその場に居合わせただけなのに、調子を合わせて騒ぐヤツもたくさんいる(笑)。
本田: 参入障壁が低いのもポイントですね。仮装しなくても、仮装パーティに行けばハロウィンに参加したことになるし、ハロウィンっぽい飾りを買ってきてリビングに置くだけでもいい。
田端: 同じブームでも、ハロウィンはマラソンやヨガのストイックさと対極にある。
本田: “なんとなく”で許される「ユルさ」があります。
田端: 確かに「分かっていない!」「その作法は間違っている!」とかハロウィンでうるさいことを言う人ってあんまり聞かないな。
本田: いや、むしろハロウィンを誰より楽しんでるのって「なんだか分からないけど、楽しそうだから来ました」というタイプな気が(笑)。
田端: ジョギングってもっと個人的なものですよね。内発的なモチベーションがないと続かない。でも、ハロウィンは今夜一晩楽しめればOK。
本田: ここ数年、職場でハロウィンをとりいれる企業も見聞きするようになってきました。実生活でもっともストレスを感じる場所でのドンチャン騒ぎは、最高のガス抜きになりますよね。
田端: この1〜2年、会社でも街中でも本当によく見かけるようになりました。あ! あと、コンプライアンスにうるさそうな企業ほど、ハロウィンに力を入れているかも。
本田: 外資系企業特有の、従業員にストレスを発散させるテクニックかもしれないですけど。こぢんまりとですが、うちもやってます(笑)。
田端: PRや広告のプロフェッショナル集団がよってたかって仮装して騒いでるのは、ちょっと不思議な光景で、見てるだけで楽しい。
本田: 最近のハロウィンは、いろんな会社や団体に伝播したこともあってちょっと地方の夏祭りすら彷彿とさせる。季節の風物詩感が出てきましたね。
田端: 本当に盆踊りのノリだ! ますます夏祭りっぽくなってきてますね。
本田: 職場でのハロウィン活動を見ていると「俺たちはブラック企業じゃないぜ!」というアピールも込められてる(笑)。
田端: それすごい分かる(笑)。「もの分かりが良くて愉快な会社」というエサを一生懸命まいてますよね。「恋するフォーチュンクッキー」の動画で企業のブランドイメージをアップしようと画策するのと、考え方としては似ている。
本田: 職場でやられると、好むと好まざるとにかかわらず、日常生活のなかにハロウィンが登場するので無視できなくなる。注目されたいという願望をかなえる格好のチャンスなんですよね。スマホで写真を撮ったり、ソーシャルメディアに写真をアップすれば、そこでまた盛り上がる。
田端: 最初は「会社でわざわざそんなことしなくても……」と渋々だった人も、やってみると意外と楽しくてハマっちゃったりするんですよね。
本田: しかも、「誘われたから」「年に一度のお祭りだから」「みんなも恥ずかしい格好をしてる」と、ハメを外す大義名分もたくさんある。
田端: 人がやってるのを見ると自分もやってみたくなるというのもありそうですよね。ハロウィンの仮装はとにかく目立つし、特徴的。ハロウィンを楽しんでいる人自体が“歩くメディア”として機能する。
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