ソニー・エリクソンがソニーになって変わってほしいこと:本田雅一のクロスオーバーデジタル(2/2 ページ)
ソニーが10月27日、エリクソンが保有するソニー・エリクソンの株式(50%)を、10億5000万ユーロ(約1116億円)で取得したと発表。ソニー・エリクソンはソニーの100%子会社となる。ソニーが製品ラインアップにスマートフォンを取り込むことで、グループ内の連携はうまくいくようになるのだろうか。
スマートフォンとタブレット、音楽プレーヤーの境目はなくなる
なぜなら、自分たち自身が違和感をもっとも大きく感じていたからに他ならない。先に挙げた3つの製品カテゴリは、1つの世界観で結びつけられていなければならない。特にスマートフォンは重要だ。昔ならば、テレビこそが機器メーカーとコンシューマの接点だったが、今は多様化し、PCやスマートフォンが、ユーザーとメーカーを結ぶ役割を担っている。
そう考えると、むしろソニー・エリクソンの買収は、タイミングが遅すぎたと言えるだろう。ソニーは2009年から、現在はソニー・エンターテイメント・ネットワークと呼ばれる、エンターテインメントコンテンツを中心とするネットワークサービスを立ち上げ、それを中心にソニー製品を結びつける戦略を打ち出していた。ならば、準備はそのころからしていなければならない。
こうしたクラウド型サービスを中心に、ネットワークで結びつけられたハードウェアの連携を取るとき、もっとも見近なコンピュータとして、常にユーザーの手元にあるものはなんだろうか?と言えば、それはやはりスマートフォンだろう。
これが個人の部屋であればPCが、リビングルームだけならタブレットが……と、スマートフォンよりも適した機器があるかもしれない。しかし、オーバーオールで使いこなしやすく、もっとも手元に近い場所にあるのは、やはりスマートフォン以外にはない。
さらに今後のスケジュールを考えると、Androidは4.0でスマートフォンとタブレットのバージョンが統合され、アプリケーションの互換性も確保される。同じAndroidといっても、タブレットとスマートフォン(あるいは音楽プレーヤー)の間には、アプリケーションに関してもユーザーインタフェースに関しても隔たりがあったが、それも新バージョンでは解消される見込みだ。
Sony Tabletをアナウンスし、それ以前から繰り返し訴求してきたソニー・エンターテイメント・ネットワークも立ち上げるというタイミングになって、やっとソニー・エリクソンの統合ではアクションの開始が遅すぎる。
ハードウェア、ソフトウェア、それにサービスを統合し、1つの製品、1つの価値として感じてもらうには、スマートフォンを開発するメーカーを手元に置くしかない。だから、ソニー・エリクソンを100%子会社にするというニュースには驚かなかったし、むしろこのタイミングで100%子会社化するならば、なぜ春の段階で(2年という猶予があったにもかかわらず)Sony Tabletと同時発表できなかったのだろう?との疑問を感じたぐらいだ。
今からでは遅すぎるが、とにかくやるしかない
つまり、考えるべきはソニー・エリクソンをなぜ100%子会社にしたのか? ではなく、なぜこんなにも遅くなったのか? ということだ。繰り返しになるが、ネットワークサービスを通じ、グループ内のデジタル機器をつなぐ構想は2009年からあったものである。
にもかかわらず、ユーザーから「torneで録画した番組はXperiaで観れないの?」「Xperiaにウォークマンの技術を投入した高音質版がなんて出せないの?」「PlayStation Vitaに3Gが入ってるけど、いっそのことXperiaと統合できる可能性はないの?」など、至極もっともな疑問を提示されて、誰もが納得する答えや将来ビジョンを言えない状態を放置してきた。その原因となる背景に、今のソニーが抱える問題が投影されている。
もちろん、別の切り口で言えば、円高が進んだことで買いやすくなったことが、買収を決断できた大きな理由と言えるだろうし(今のレート換算で言えば、今回の買収は安い)、水面下で進めてきた交渉が、やっとここで実現しただけなのかもしれない。
とはいえ、時間は巻き戻せない。今はとにかく、前へと進むしかないだろう。
ただし、これまでと同じような進め方では、すぐには商品の連動を強めていくのは容易ではない。
例えばソニーが提供するネットワークサービスは、当然、ひとつのMy Sony IDだけで使えるか?というと、個別にIDを取得しなければならないものもある。すべてのコンテンツに対してワンストップでのアクセスが行えず、コンテンツを入手するアプリケーションのユーザーインタフェースに統一感が見られないなど、社内での連携に疑問を持たざるを得ない部分が現時点では散見される。
その原因は、社内の連携不足、異なるカテゴリの製品がうまくひとつにまとまっていない証左だ。ソニー・コンピュータ・エンターテイメント(SCE)がプレイステーション向けに開発してきたサービスを基礎に作った部分と、それ以外の部分が混ざり、サービスの統合について十分に話し合いが行われていないなど、グループ内での連携にスムースさが欠けているのではないだろうか。
外から見ていても、SCEとソニーは企業文化が大きく違う。異なる2つの組織を1つにまとめ、価値を引き出すことは、とてつもなく難しい。これはソニー・エリクソンの統合時にも言えることだろう。SCEとソニーの文化的、実務的な融合は、ここにきてかなり進んできたと耳にするが、それでもまだ完全とは言い難い。
ソニー・エリクソンがソニーの100%子会社なれるかどうか、まだ完全に決まっているわけではない。しかし、仮にそうなったとして、すぐにハッピーな未来が描けるわけではない。そこから先の実務が、きちんと素早く進められ、企業としての融和が進まなければ、製品の統合は進まない。
ソニーの動きはすでに遅すぎるのだろうか。それとも今からでも十分に間に合うのだろうか。私の目にはやや遅すぎるように思う。挽回には大きなエネルギーが必要だろう。ソニー・エリクソンの統合が成功となるか否かは、2つの企業を1つにまとめ上げるスピードにかかっている。
願わくは、遅すぎるという筆者の予想が外れてほしいものだ。
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