IFA 2012で感じた、スマートフォンにまつわる2つの“意外”:本田雅一のクロスオーバーデジタル(2/2 ページ)
9月5日までドイツで開催されていた「IFA 2012」を取材して、意外に感じたことが2つある。1つはSamsung電子のスマートデバイスのラインアップが地味だったことと、Windows Phone 8への注目度が各所で上がっていたことだ。
訴訟問題をクリアできるWindows Phone 8
先日ロイターが「Appleが、Microsoftにデザイン特許の使用許諾を付与」と伝えたように、AppleはMicrosoftと特許に関しての協力関係を強めている。このニュースではデザインに関する部分のみが語られているが、これまでにもAppleがMicrosoftの作るスマートフォン用OSに対し、何ら批判をしていないことを考えても、Windows Phoneが“Apple特許に対してクリーン”な状態であると考えられる。
また、Androidにはセキュリティ上の問題もある。不正なアプリが、他のプラットフォームと比べて蔓延しやすいGoogleのエコシステムも問題だが、AndroidはJavaによく似たバイトコードでのプログラム実装というスタイルを採用しながら、保護された領域でプログラムを実行させる“サンドボックス”としての十分な機能を果たせていないことなど、企業ユースでの問題点もある。
例えば、Microsoftにスマートフォン1台あたり数ドルの特許料を支払う義務を負っているHTCは、AndroidのエコシステムにとどまるよりもWindows Phoneを採用する方が望ましいと考えているのではないだろうか。
もちろん、Windows Phone 8にも問題がないわけではない。企業ユースにマッチしていることは間違いないが、コンシューマー向けにはアプリケーションが少なすぎるとの声はいぜんとしてある。また、企業向けアプリケーションなどB2Bアプリケーションの開発者には、Microsoftのツールに慣れたエンジニアが多いが、スマートフォン、モバイル向けのアプリケーション開発においては事情が異なるという意見も多い。
ただ、Microsoftがそもそも開発ツールとOSの会社であり、本質的に“パートナーに対して価値を提供する”ことで成長してきた会社であることは忘れてはならない。パートナーを必要とせず、自社の持つサービスフレームワークにあらゆる要素を取り込むGoogleよりも、協業する上で付き合いやすい会社だからだ。
こうした話題を念頭に取材しながら、IFAで話を聞いた各メーカーのトップや幹部に対して、これまでのAndroidへの投資結果に関して、現在どのような評価をしているかを尋ねてみた。
あるメーカー幹部は「Androidへの投資の影響は多岐にわたっている。さまざまな製品がAndroid機との連動を想定した製品の実装になっており、連動させるネットワークサービスもAndroidのアプリケーションと同時開発をしている例が多い。未発表の製品も含めるとAndroidへの依存度はかなり高い」と話した。
その一方でAndroidへの投資に関して「だまされたという表現は正しくないだろうが、Androidは当初言われていたほど開放的で平等なプラットフォームではなく、すでにアプリケーション領域まで踏み込んだものになってきている。こういう状況になるなら……ということを今から言ってもしかたがないのだが、思うところはある」との声も聞かれた。
このような話は1社だけから聞こえるものではない。ここに来て、さらにAndroid搭載スマートフォンに訴訟リスクが付いて来るとなれば、「Googleにだまされた」「自分たちはやらない方がよかった」といった、“結果論”としか言いようのない言葉が出てくるのも無理からぬことだろう。
そうは言っても、各社がAndroidに本格的な投資を始めた時期に、代替となるOSが存在しなかったことも事実だ。Windows Phoneは前身とも言えるWindows Mobile 6.xとは全く別のものだ。ポータブルオーディオプレーヤー「Zune」向けのソフトウェアを基本として発展し、B2BもカバーするちゃんとしたOSとして再設計されたのは、2010年にリリースされたWindows Phone 7からである。当時の判断としてはAndroid以外に選択肢はなかったのだから、結果論でしかない。
ここに来てWindows Phone 8に対する評価は二分されるようになってきた。従来通り、「Microsoftがこの領域で成功することは難しい」という意見(これまでMicrosoftはモバイル向けOSで成功したことが一度もない)がある一方、「漁夫の利を得てパートナーとの信頼を獲得するのではないか?」という見方も生まれている。Windows Phone 7.5以降、OSの質が大幅に高まっていることを考えると、新たなイノベーションを引き起こす鍵にはならないにしても、BlackBerryの後を引き継ぎ、Androidスマートフォン市場の一部を切り崩すことはできるように思う。
さらに踏み込んで“邪推”するなら、そもそもAppleはMicrosoftと手を握ることで、対Androidへの圧力を強めているのではないかと見ることもできるだろう。ちまたでは、あまり売れるとみられていないWindows Phone 8であるが、この状況でうまく立ち回ることができれば、現状を一変させることになるかもしれない。
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