“妥協なき商品”を目指してarcのサイズとacroの機能を両立――「Xperia AX SO-01E」:開発陣に聞く「Xperia AX SO-01E」(2/2 ページ)
日本で多くの支持を集めているXperiaシリーズだが、純粋な“全部入り”はこれまで存在せず、ユーザーに我慢を強いてきた部分もあった。そこで冬モデルのXperia AXでは、arcのサイズとacro HDの機能を両立させ、妥協が1つもない商品を目指した。
「カバーガラス一体型タッチパネル」を新たに搭載
ディスプレイの構造も本体の薄型化に貢献している。従来のXperiaでは、上からカバーガラス、センサー層(を乗せたガラス)、液晶を3枚貼り合わせた構造になっていた。Xperia AXの液晶ではカバーガラスとセンサー層を一体化させた「カバーガラス一体型タッチパネル」を採用することで、Xperia GXと比べて約20%薄くなった。
これにより、センサーと指で触る部分の距離が縮まって、タッチの精度も向上している。ソニーモバイルはこれを「ダイレクトタッチ」と銘打っている。ディスプレイ開発担当の合田氏によると、ダイレクトタッチ用にタッチパネルの新しいICチップを採用してチューニングすることで、タッチの快適さやサクサク感が向上しているという。「フリック時の画面遷移や、Webのスクロールなどで体感できます。文字入力では打ち間違うことが少なくなりましたね」(田中氏)
従来も(Xperia arcから)カバーガラスと液晶の間にある空気層をなくす「クリアブラックパネル」を採用していたが、この手法はXperia AXでも取り入れている。空気層がなくなり、またAXではセンサー層が省かれたことで光の乱反射がさらに減り、屋外などでも画面が見やすくなる。ソニーモバイルはこれを「オプティコントラストパネル」と呼ぶ。手法自体は従来のクリアブラックパネルと同じだが、「ソニーの100%子会社になったことで、マーケティングの観点から名称を変更した」(田中氏)そうだ。
今回の新しいディスプレイを開発するにあたり、苦労したことについては「薄さと強度は相反するので、その両立が大変でした。強度は従来と同等を確保できるように頑張りました」と合田氏は話す。
「液晶自体の見栄えもこれまで以上に良いものにしないといけません」と合田氏が言うように、新たに「モバイルブラビアエンジン2」も導入した。従来の「モバイルブラビアエンジン1」との違いは、「コントラスト感が向上したこと」(合田氏)に加え、フレームごとに明るさを分析して、適宜最適な明るさに調整していること。「再生されるコンテンツの解像度に応じてシャープネスも変えています。YouTubeを見るときはこういうモードと選んでもらうという手段もありましたが、簡単に使ってもらうために、端末側が自動で調整する方法を選びました」(田中氏)
画質向上技術を取り入れるにあたり、ソニーモバイルはどんな要素を重視したのか。合田氏は「まず人肌がきれいに表現できること」と話す。「モバイルブラビアエンジン2では、やさしい人肌の温もりを見せることをベースに、赤や青などもきれいに見せるよう注力しました」(田中氏)
このモバイルブラビアエンジン2は、動画のほかに静止画でも有効になるが、静止画で有効になるのは「アルバム」アプリから画像を表示した場合のみ。ブラウザで表示された画像などには効果がないが、ブラウザの画像を保存してアルバムアプリから表示すれば効く。これは、エンジンを適用するアプリをアルバムのみにしているためだ。
3層構造とカラーバリエーションのこだわり
ソニーモバイルのスマートフォンといえば、デザインも見逃せない。アーク形状はXperia arcから継承しているが、Xperia AXならではの要素もしっかり盛り込んでいる。その核になるのが、ディスプレイ、フレーム、背面の3層構造だ。側面から見るとこの3層が目立つようになっているほか、ディスプレイ面からボディ下部を少しはみ出させた「Elevated Element」により、正面から見ても背面のカラーが分かるようにした。プロダクトデザイン担当の石田氏は「AXでは薄さを引き立てるデザインを目指しています。段差を設けてより液晶の薄さを強調しながら、フロントからアイコニックなデザインとして、店頭でもさり気なく見せるようこだわりました」と話す。このデザインは「Xperia Vとまったく同じ」(石田氏)だそうだ。
デザインで特に苦労したのは、「3層構造をきれいに見せるために、サイドキーやイヤフォンジャックのカバー、Micro USB端子のカバーをすべて、側面のフレームの中に収めていることです」と石田氏は話す。Xperia arcも側面に蒸着塗装を施したフレームを配していたが、イヤフォンジャックやMicro USB端子がフレームからはみ出していた。「ソニーモバイルは、2012年は“アイコニックアイデンティティ”をデザインのテーマにし、ソリッド感や塊感を追求しています。arcのときのように、いかにもフレームを巻いたというよりは、厚み、塊感、重厚感を意識して、1つのプレートを置いています」と石田氏は意図を話す。
カラーバリエーションはWhite、Pink、Black、Turquoiseの4色をそろえた。「arcなどグローバルの素に近い機種に比べると、acroやacro HDでは、色やデザインが気に入ったという声が高かったんです。AXでもそういうお客様を獲得していきたかったので、選べる色を増やしていこうとドコモさんと協議させていただきました」と田中氏は話す。では、各色はどのような狙いで採用したのか。カラー&マテリアル担当の金田氏に聞いた。
「Blackは、ダークでマットなテイストにしています。フレームは蒸着ですが、シボを入れたことで、よりしっとりとした、重さのある金属感が出るようにしています。このフレームには、色を加えてより暗くして、さらに光沢ではなく半ツヤにしているんです。ツヤを与えるとインパクトは出ますが上質感は損なわれます。ツヤを調節することで、いやらしくない上質な金属感を目指しました」(金田氏)
このように、フレームをただの蒸着ではなく“シボ蒸着”にしているのが特徴だ。これはどのような手法で実現しているのだろうか。谷口氏は「通常は、一番上に光沢感が出るよう、すべてのレイヤーを同じようにピカピカの層に塗装していますが、シボ蒸着の場合は、最下層に少しマット剤を入れています。その上に蒸着層があるのですが、最下層の凹凸を拾うことで蒸着面も凹凸になり、シボっぽくなります」と説明する。このように塗装の下処理を変えることで、上質な金属感を出せるようにした。
Whiteは、フレームの塗装がXperia AXとVで異なるという。「Vはピカピカの蒸着ですが、AXは若干シルバーグレーの風味があるホワイトを採用しています。裏面はガラスフレークの入っているマット仕上げにしました」と金田氏。Xperiaシリーズでは必ずと言っていいほど用意されるWhiteも、端末によって色味を変えている。例えばXperia GXのWhiteは暖色系だったが、AXでは「ニュートラルな方向に、万人に受け入れていただく」(金田氏)ことを重視した。ただ、AXのWhiteは、どちらかというと女性を意識したようだ。「ホワイトへの嗜好は欧州と日本で異なるので、AXは女性が手に取りやすいカラーにしました。Vはハイエンド志向の男性にアプローチしたいので、フレームを蒸着にして格好良く見せています」(田中氏)
アジア圏を中心に人気のピンクはXperia AXでも採用している。「Pinkはかわいいことが大前提ですが、かわいすぎず、甘すぎず、だけど上品で気持ちの良いピンクを目指しました。フレームはぴかっとさせるような蒸着仕上げにしています」と金田氏は話す。ビビッドなTurquoiseでは、「若さやフレッシュさを意識した」(金田氏)という。「背面はフレッシュなテイストですが、側面のフレームを蒸着塗装にすることで、遊びすぎず、上質感も加えています」
Turquoiseは日本オリジナルのカラーだ。BlackとPinkはXperia Vにも採用しており、Whiteは先述のとおり、フレームの塗装がAXとVとでは異なる。また、フレームの塗装はAXの4色の中でも蒸着あり・なし、シボ蒸着など異なっており、色によって世界観が異なることが分かる。あらためて、塗装の方法で色の影響が大きく変わるものだと感じた。
NFCのエコシステムをソニーの中で拡張していく
日本のスマートフォンに必要な機能を過不足なく備えたXperia AXだが、クアッドコアや大容量メモリ、5インチクラスのディスプレイなどを備える最新のハイエンド機に比べると、スペックで突出した部分は少ないように思える。田中氏は「スペック競争に追従する考えはあります」としながらも、AXでは簡単・快適さを追求したことを強調する。
また「このタイミングでNFCとFeliCaを搭載しているのは最先端に属すると思います」と田中氏は付け加える。ただしNFCを搭載したのもスペックの優位性を打ち出すためではなく、「NFCが入ることで、こんなに簡単にほかの機器とペアリングできるといった、簡単操作を実現するためのソリューションです」と意図を説明する。ソニーのワイヤレスヘッドフォン「MDR-1RBT」と、ワイヤレススピーカー「SRS-BTV5」に、Xperia AXをタッチするだけで電源が入ったり、Bluetoothのペアリングをしたりできるのも、このソリューションに含まれる。細かいところでは、NFCのオンとオフを切り替えられる「NFCカンタン起動」ウィジェットでは、日本の端末のみ、ウィジェットの起動時にNFCを使ってできる説明が表示される。
NFC経由でスマートフォンとソニーの家電を簡単に接続できる「ワンタッチ機能」は、今後も強化していく。「大きなプロジェクトとして発足しているので、ソニーの各事業部と連携し、どういったユーザー体験を提供するかは、日々検討しています」(田中氏)
Xperia arcのサイズとacro HDの機能を両立させたXperia AXは、日本向けXperiaの1つの集大成と言えるだろう。一方で個人的には、AXのデザインはXperia arcやXperia NXなどと比べると「おお!」という驚きは乏しかった。今後もアークデザインを継承していくのか。それとも新機軸のデザインを採用するのか……田中氏は「デザインは進化していくものなので、その時代のニーズや技術の進化に合わせて、コンセプトも進化していきたいと思っています」と話す。進化、そして深化したXperiaの“次の一手”も楽しみにしたい。
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