その姿はアスリートのごとく――“緊張感”がもたらすXperia arcの曲線美:開発陣に聞く「Xperia arc SO-01C」(後編)
画一的なデザインになりがちなフルタッチ型のスマートフォンの中で、Xperia arcの弧を描くボディからは強烈な個性が感じられる。インタビューの後編では、Xperia arcの外側と内側のデザインについてリポートしよう。
NTTドコモから発売された、ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズ製のAndroid搭載スマートフォン「Xperia arc SO-01C」。開発の舞台裏に迫るインタビューの前編では、最薄部8.7ミリを実現できた機構設計の工夫や、新たに練り直したUI(ユーザーインタフェース)について話を聞いた。後編では弧を描く曲線が特徴的なデザインと、GUI(グラフィックユーザーインタフェース)に焦点を当てる。
アスリートの“身体の張り”をイメージ
2010年からスマートフォンは大きく市場シェアを伸ばしたが、一方で大半のモデルがフルタッチ型の形状を採用し、デザインやギミックでの差別化が難しくなりつつある。そんな中でソニー・エリクソンが出した回答が、arcの弧を描く形状だ。ソニー・エリクソンのデザインテーマは2010年から引き継いでおり、「Human Curvature(ヒューマンカーバチャー:人間的な曲線)」と、「Precision by Tension(プレシジョンバイテンション:緊張感による精密さ)」という2つの要素が中核を担っている。
Xperia arcでは「これら2つの要素を融合できないか、つまり緊張感を曲線に取り込めないか」とデザインマネージャーの鈴木氏は考え、弓なりの形状が生まれた。鈴木氏は「弓なりというよりは、アスリートが力を入れたときの身体の張り」をイメージしたという。Xperiaでは裏側のラウンド形状にこだわったが、Xperia arcもその形状を維持しながら、薄型化を図るとともに、「もう1つ強い押しが欲しかった」と鈴木氏は話す。Xperia arcでは「一筆書きができるライン」を目指し、側面の曲線が象徴となっている。
弧を描くデザインは外観のインパクトを狙っただけでなく、部品配置の観点からも理にかなっている。「カメラの近くにアンテナを置き、中央が薄くできているので、造形と部品のバランスが取れています。本体が曲がっていると強度の心配もありますが、ここは設計に頑張ってもらい、強度も確保しています」と鈴木氏は話す。弓なりに突起したところの内部にも部品が隙間なく並べられているので、無駄なスペースがなくなっている。
ディスプレイの大型化やモバイルブラビアエンジンの搭載で、Xperia arcでは横向きの利用シーンが増えることが予想されるため、縦横どちらの向きに持ってもホールド感がよくなるよう配慮した。Xperia arcは(横にした際の)左右がやや突起しているので、ここがグリップになる。
Xperia arcのバックライトを消灯させたときに印象的なのが、ディスプレイと枠が一体となり、黒1色が広がる様子だ。「窓の中に額縁があると美しくない」(鈴木氏)との考えから、Xperia arcのディスプレイは周囲の枠と同じ黒色に統一させた。これは空気層のないクリアブラックパネルだからこそ実現できたこと。ソニーの液晶テレビ「BRAVIA」にも使われている手法だが、携帯電話で採用したのはXperia arcが初めてだ。現行のXperiaシリーズの中でもarcにしか使われていない。
ディスプレイ下部にはクリア/ホーム/MENUという3つの物理キーがある。Xperia arcを使うと、これら物理キーのクリック感がXperiaから向上していることが分かる。鈴木氏によると、これはキーの頂点(最も突起したところ)の位置をXperiaから変更したためだという。Xperiaの物理キーは頂点が中央のやや上にあったが、Xperia arcの頂点はキーの中央付近にあるので、指の腹にしっかり当たり、より強いクリック感を得られる。
一方、Xperia arcのクリアとMENUキーはXperiaとは逆の配列になっており、Xperiaユーザーにとっては少々紛らわしい。あえて逆に配置したのは「他のソニー・エリクソンの端末では、クリアキーが右側にあるものが多く、この時点で最適化を図ったため」(鈴木氏)。ただ、Android端末全体を見ても、キーの配列は統一されていないので、「これがベストかどうかは分からない」(鈴木氏)とも考えており、まだ試行錯誤している段階のようだ。
Sakura Pinkは“つぼみ”をイメージ
Xperia arcのカラーバリエーションは、グローバルモデルではMidnight BlueとMisty Silverの2色だが、日本ではSakura Pinkを追加して話題を集めている。「スマートフォンの需要が伸びてきた中で、こういった(ピンクの)色が市場にありませんでした。Xperiaブランドのバリューを保ちながら、女性も取れる色が必要」(鈴木氏)と考えて採用した。「Sakura」と付けたことについては、「桜(Sakura)は全世界共通の言語。日本発ということもあったので、あえて和名を入れました」と鈴木氏は話す。
桜といえばソメイヨシノが代表種だが、ソメイヨシノの花はピンクというよりは白に近い。Xperia arcのSakura Pinkは「これから花が開くという思いを込めて、つぼみの濃いピンクをイメージした」(鈴木氏)という。Sakura Pinkは現時点では日本でのみ発売されているが、日本専用というわけではなく、他国の事業者からも要望があれば供給する。
ダークブルーの印象が強いMidnight Blueでは、グラデーションをかけることで「夜空のちょっとした変化をイメージした」(鈴木氏)という。「XperiaのSensuous BlackとLuster Whiteは“すべての色が混ざり合った黒”と“何も染まっていない白”という両極の色を目指しましたが、弓なりの形状に合うよう、arcのMidnight Blueでは“移りゆく変化”をテーマに、白と黒の過程をうまく抽出しました」(鈴木氏)
XperiaのSensuous Blackはマットな塗装を使っていたが、Xperia arcには3色とも軽やかな色を出せるよう蒸着塗装を施している。Misty Silverは蒸着の上に粒子を散りばめて、朝もやを表現した。「Misty Silverは、角度によってはグラデーションがかかっているように見えます」と鈴木氏は特徴を説明する。こうして見ると、3色ともただの色違いではなく、各色のコンセプトに合った着色と塗装が施されていることが分かる。
細かいところでは、外周にあるシルバーのフレームの見せ方も変えた。XperiaではSensuous BlackとLuster Whiteでフレームの色を変えていたが、Xperia arcでは3色とも同色のフレームを使っている。「Xperiaでは帯(フレーム)を強調してなじませることを狙いましたが、arcは弓なりの曲線が一番分かりやすく、そこを目立たせたかったので、フレームは、どのボディカラーにも合う共通の色にしました。Xperiaのフレームとは違う色を使っています」(鈴木氏)
いろいろな国の意見が入る方が刺激的
中身のデザインといえるGUI(グラフィックユーザーインタフェース)でもソニエリらしさを表現した。Xperiaでは「フロー(流れ)」と呼ばれる青いテーマで統一しており、Xperia arcでもこのテーマを継承している。デザインプロデューサーの浜氏によると、Xperia arcでは「スピードとユーザビリティ」を重視し、より流れるような操作性にこだわったという。「Timescapeは改善した機能の1つです。ウィジェットや、Timescape自体を快適に操作できるようにしました。ホーム画面はカスタマイズの幅を広げて、さらに速く操作できるよう、特に気を遣って開発しました」(浜氏)。ソフトウエアプロジェクトマネージャーの花見氏も「ホーム画面はユーザーが一番目にするものなので、苦労しながらも気合いを入れて変えました」と話す。
クリアブラックパネルとの相性も考え、設定画面などの背景に表示される青いグラフィックは、やや暗い色になっている。プリインストールアプリはXperiaと同じく、白ベースの色に統一し、一部のアイコンデザインはXperiaから変更されている。
GUIはシリコンバレーで先行開発し、スウェーデン、東京、北京でも開発された。ウィジェットのサムネイル表示はスウェーデンで生まれたアイデアだという。Xperiaでは日本のスタッフが中心となって開発したが、Xperia arcには海外の特徴がより色濃く反映されている。「arcはグローバルモデルなので、世界中で売るものを作るときに、価値観が偏っていると危険です。文化的な違いを超えて、いろいろな国の意見がダイレクトに入ってくる方が刺激的です」と浜氏は世界展開するメリットを話す。「日本は1つのことを突き詰めて作ることが得意ですが、全体の中からどれが大事かを見極めるには、グローバルな視点が必要になります」(浜氏)
Xperiaでは“突き詰めた”結果、TimescapeとMediascapeという独創的なアプリを実装できたが、一方で、満足のいく使い勝手を実現できない面もあった。「開発期間内にベストなユーザーエクスペリエンスを提供する上で、Mediascapeには足りないものが多すぎました。その時々でベストなアプリケーションを搭載しようと考え、Mediascapeは見送りました」(浜氏)
グローバルモデルゆえに、赤外線通信やおサイフケータイなど日本独自の機能は対応していないが、さまざまな国や地域のアイデアが注入されることで、他にはないユーザーエクスペリエンス(浜氏が言う刺激)を得られる。もちろん、そこには使いやすさが伴わないと意味がない。Xperia arcは、長く使う上で大切な“心地よい刺激”をうまく体現したモデルといえる。
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