ドコモ、iPhone参入のインパクト:神尾寿のMobile+Views(2/2 ページ)
iPhone 5s/5cが発表されてから、特に大きな話題を集めているのがドコモの参入だ。同社が発表する端末価格や料金体系、各種サービスの対応状況に人々の関心が集まっている。ドコモのiPhone参入はどのような意味を持つのか? あらためて考えてみたい。
ドコモ参入による激戦区は?
ドコモがiPhoneの取り扱いを始めることは、日本のモバイルIT市場全体にさまざまな影響を及ぼす。大手キャリア3社の競争が新たな局面を迎えることは間違いない。
その中でも注目なのが、ドコモが抱える膨大なフィーチャーホン(ケータイ)ユーザーの行方だ。ドコモは現在、約2000万強のスマートフォン/タブレット契約者数を持っているが、他方で約3000万強のフィーチャーホン契約者数が残っている。ドコモは未だに“スマートフォンユーザーよりもケータイユーザー”の方が多いのだ。
そして、スマートフォンについてあまり詳しくなく、難しいことを考えたくないユーザーにとって、周囲にユーザーが多いiPhoneは「初めてのスマホ」として最適な存在だ。ドコモがiPhoneを取り扱っていなかった時期は、それがauやソフトバンクモバイルがMNPで優位を取る大きな要因だった。しかし、今回ドコモ版iPhoneが投入されることで、ドコモのケータイユーザーがiPhone欲しさにMNPする必要はなくなった。それでもなおドコモのケータイユーザーを獲得したければ、KDDIとソフトバンクモバイルは販促費を積み増しして、かなりの好条件をMNPの利用者に提示しなければならなくなるだろう。
そして、もうひとつ。ドコモ版iPhoneは「旧いAndroidスマートフォンユーザー」というドコモの課題も解消する。ドコモは国内スマートフォン市場の立ち上げ期に、自社にないiPhoneに対抗するため、かなり無理をしてAndroidスマートフォンを拡販した。しかし、Androidのバージョンが4.0以前の製品は安定性や使い勝手に難があり、当時のiPhoneと異なり、ギーク層はともかく一般ユーザー層には売ってはいけないものだった。それでもドコモは強引に、旧いAndroidスマートフォンを“iPhoneっぽいものが欲しいドコモユーザー”に無理やり売ってしまったのだ。
そしてこの1年余り、ドコモはそのツケを払わされ続けていた。不安定で使いにくいAndroidスマートフォンに辟易したユーザーは、“まともなスマートフォン”が欲しくてiPhoneを求め、MNPでauやソフトバンクに移っていった。彼らは最新のAndroidが改善されつつあることを知らないので、周囲の人々にドコモのAndroidスマートフォンについての不満を漏らす。これが昨今のドコモを悩ませていた旧いAndroidスマートフォンユーザーの問題である。
言うなればこれはドコモの自業自得の部分が多々あるのだが、ドコモはようやくこの問題に対して、彼らの不満をなだめられるiPhoneという選択肢を用意できた。問題となっている旧いAndroidスマートフォンユーザーは未だに500万人以上存在しており、今回のiPhone導入で彼らの流出を抑止し、なおかつドコモに対するネガティブな評価を抑えられる意味は大きいだろう。
これらの背景を踏まえて、今回ドコモが用意したiPhone 5sとiPhone 5cの端末価格や料金キャンペーンを見ると、その狙いと思惑がよく見えてくる。
まず容量別の端末価格をほぼ一揃いで出して、24カ月間毎月の利用料金から割引を行う月々サポートの差で「実質価格で差を付ける」形としたのは、ドコモ版iPhoneの主要ターゲットが一般ユーザー層であるからだ。スマートフォンを毎年買い換えるようなギーク層と異なり、一般ユーザー層の買い換えサイクルは約2年で安定してきている。とりわけiPhoneは旧機種へのOSのバージョンアップを丁寧に行い、ユーザー体験の陳腐化がゆっくりであるため、“普通のユーザーが安心して、まったりと2年使う”のに適している。iPhoneを一般ユーザー層向けに売るのならば、今回のドコモの端末価格体系は合理的である。
そして各種キャンペーンの中では、iPhoneへの機種変更を優遇する「iPhone買いかえ割」が実質的な旧Androidユーザー向けの買い換え支援および引き留め策になっている。iPhone買いかえ割はドコモの携帯電話・スマートフォンからiPhoneに買い換えた際に月々サポートを420円×24カ月間の増額をするというものだが、これを使うとiPhone 5cの32GバイトやiPhone 5sの16Gバイトは実質0円(24カ月の利用)になり、iPhone 5cの16Gバイトに至っては月々の支払金額が旧いAndroidスマートフォンを使い続けるよりも安くなるケースも出てくるのだ。
このようにドコモは、これまでMNPで負け続けていた“傷口”をよく理解しており、今回のiPhone投入でまずはそれを塞ぐような端末価格・料金キャンペーンを打ってきた。そして、それに加えて「ドコモへおかえり割」や「ドコモへスイッチ学割」など攻めの姿勢にも余念がない。
iPhone発売直後のお祭り騒ぎが落ち着けば、年末商戦と春商戦がやってくる。ドコモがiPhoneを投入したことで、「ドコモのケータイユーザー」「ドコモの旧いAndroidスマートフォンユーザー」、iPhoneが主な要因で「ドコモから流出したユーザー」、そして「学生層」の4カ所が激戦区になる。現時点では、ドコモの布石はかなり理にかなったものとなっている。特に来春商戦において、KDDIとソフトバンクモバイルは、これまでよりもかなり厳しい戦いを強いられるだろう。
ドコモの課題は「迅速なサービス立ち上げ」
ドコモのiPhone参入は、ドコモとAppleにとってベストとまではいかずとも、ベターなタイミングで行われたと筆者は評価している。ドコモにとっては市場競争での反転攻勢の契機となり、Appleにとっては日本におけるiPhoneのシェアを確固たるものにするチャンスになるだろう。
むろん、課題がまったくないわけではない。
まずドコモにおける直近の課題は、初めて扱うiPhone向けに、販売チャネルや各種サービスやアフターケアの体制を整えられるかどうかだ。特にサービス関連は重要で、すでに10月1日からの開始が予定されているキャリアメールのほかに、「dマーケット」の各種コンテンツサービス、「ビジュアルボイスメール」などiPhone向けのネットワークサービス対応も欠かせない。これらはKDDIのiPhone参入時にも準備に時間がかかったものだが、ドコモ版iPhone投入による天王山が来春商戦であることを鑑みると、少なくとも向こう3カ月以内にはすべて整備する必要がある。
他方で、Apple側の課題はなんといっても供給体制の安定化だろう。ドコモとAppleが狙う一般ユーザー層は、品不足に長らく我慢できるほどスマートフォンに関心があるわけではない。販売開始から1カ月弱くらいは仕方ないにせよ、冬商戦が始まる前にはすべてのモデル/グレードで、ユーザーの需要にきちんと応えられる供給体制が必要だ。とりわけ春商戦は購入期間が限られるため、品切れで商機を逃すようなことがあったら目もあてられない。
このように課題や懸念があるにせよ、ドコモ版iPhoneは成功する可能性が高く、それにより日本市場ではiPhoneを軸にスマートフォン市場が一気に活性化することになる。アプリやコンテンツ、アクセサリ市場も再び成長期に入るだろう。
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