「安くても大手キャリアに負けない」――大攻勢をかける「楽天モバイル」の現在地:MVNOに聞く(3/3 ページ)
MVNOサービス「楽天モバイル」が勢いを加速させている。端末と通信料が一体となった「コミコミプラン」も発表し、Huaweiや富士通の新機種も投入する。そんな楽天モバイルの最新戦略を聞いた。
ポイントサービスなら大手キャリアにも勝てる
―― 先日の発表で、楽天スーパーポイントを毎月の料金に充当できるようになりました。こちらは、以前からの方針でしたが、かなり時間がかかった印象があります。やはりシステムを作るのが大変だったということでしょうか。
大尾嘉氏 早い段階から発表していたこともあり、重要視はしていました。お客さまのニーズに応じて優先順位をつけていたのは確かですが、開発に時間がかかったのも事実です。特に、決済システムに関わるものでもあるため、万全を期した結果、今回のタイミングになっています。
―― 楽天でちょっと高いものを買えば、通信料も払えてしまうので、これは大きいですね。
大尾嘉氏 モバイルは毎月払うもので、どちらかというと、ポイントを使う側になります。確実に使うものがあるからポイントをためるわけで、ライフラインの1つであるケータイがタダになると思えば、逆に楽天スーパーポイントをためようというモチベーションにもなります。
楽天スーパーポイントはたまりやすいですからね。今はSPU(スーパーポイントアッププログラム)をやっていて、楽天プレミアムカードを使い、楽天市場アプリを月1回経由し、かつ楽天モバイルユーザーであれば7倍のポイントがつきます。10%に近いので、ドカッとまとめて買うと、ポイントのたまり方もすごいことになります。
僕自身もヘビーユーザーですが、やはり一番楽しいのは、商品をポイントだけで買えると分かったときです(笑)。
―― 確かにスカッとするので、その感覚は理解できます。チマチマ使うより、なぜか得したようにも感じます(笑)。
大尾嘉氏 それも含めて楽天の強みなので、グループのサービスを使い倒している人には、すごくお得になるのではないでしょうか。
―― 大手キャリアは、逆にポイントプログラムを強化していますが、最初からそれを持っているのは強いですね。
大尾嘉氏 高い視点で見たとき、大手キャリアは自分たちでポイントを作ろうとしていますが、そこの勝負だったらMVNOでも勝てるのではないでしょうか。そこには、バリューがあるからです。
黒住氏 ケータイサービスに対する見方が違って、今まではドコモさんがあって、auさんがあって、ソフトバンクさんがあって、そこにひも付くポイントがあるという考え方でしたが、楽天モバイルは違う見方を提供できるのだと思います。
MVNOに埋もれず、MNOでもない第三極を目指す
―― 伸びてはいる一方で、目標としての1000万回線にはまだまだ遠いようにも感じます。これに関しては、いかがでしょうか。もう諦めて、現実的な数字を持っているというようなことはありますか。
大尾嘉氏 インスピレーショナルターゲットというような言い方もしていますが、長期的な目標としては、もちろん持っています。今のMVNOのマーケットの規模を超えている数字ではありますが、そこに向けて、頑張っています。
黒住氏 だからこそ、第三極というような言い方をしています。他のMVNOに埋もれるのではなく、MNOでもない。そういうポジションを作っていかなければならないと思います。
―― そこに向けては、先ほどお話いただいた店舗も重要性を増してくるのではないでしょうか。
大尾嘉氏 はい。直営店自体は去年(2015年)からやっていますが、今回は初めて、ITXさんやティーガイアさんと共同でやっていくことも発表しました。もともと、自分たちで直営店を始めた理由は簡単で、まずやってみないと分からないからです。お店の場所を決め、カウンターを設置し、お客さまの導線はどうすればいいのか、どういう接客がいいのかといったことは、試行錯誤の連続でした。
その直営店をやり、ブランドイメージやルック&フィールはこれがいい、ブランドアウェアネス(ブランドの認知度)はこうすればいいということが分かり、横展開できるようになったため、パートナーにお願いするという流れになりました。自らやってみて、確立したものを代理店さんに展開して、一緒にマーケットを拡大する。今後は、この代理店型の店舗も増えていくことになります。
―― 一方で、代理店で一気に広げると、コストが掛かって価格に跳ね返る心配もあります。その点はいかがでしょう。
大尾嘉氏 その点は、お客さまに跳ね返ることがないようにやっています。根幹のビジネスモデルを納得していただき、その中でできることをやっています。お店を出す場所もものすごく選んでいますし、この点は量販店さん、代理店さんにも納得をいただいた上で、パートナーシップを結んでいます。これだけ掛かったのだから、料金がこうなりますということはしません。
―― HLR/HSS開放の議論もありますが、楽天モバイルさんとしては、この点をどうお考えでしょうか。
大尾嘉氏 検討はしていて、調査、勉強をしているところです。ただ、ユーザーメリットがあることが前提で、これもコストに跳ね返ってしまっては意味がありません。
―― 最後に、中期的、長期的な目標を教えてください。
大尾嘉氏 1つは年内100店舗という言い方をしていますが、そうなるとお客さまがどこに住んでいても、取りあえず話を聞いてから購入できるようにはなります。ある程度距離はあるかもしれませんが、遠すぎて行けないということも少なくなります。そういったタッチポイントは、張り巡らせていきたい。また、お店が近くにない方にも、訪問サポートや出張申し込みを提供しています。まずは、そこをやっていきます。
黒住氏 今だと大手キャリアか格安スマホかという分類になっていますが、第三極として楽天と言っていただけるところに持っていきたい。今、その準備が整った段階です。5分のかけ放題があり、ポイント利用があり、充実のラインアップがあり、アクセサリーにも力を入れています。そういったものがあり、「やっぱり楽天モバイルだね」と言っていただけることが、インスピレーショナルターゲット(1000万契約)への道なのだと思います。
大尾嘉氏 われわれは携帯電話会社というより、モバイルのライフスタイルをサポートし、提案する会社です。スマホやモバイルで楽しいことをしたいときは、楽天に聞けば教えてくれる。通信会社を飛び越え、そういったサービスを提供していきたいですね。
取材を終えて:第三極のポジション争いも激化
MVNO同士の競争が激化していることもあり、データ通信の価格は徐々に下落している。特に低容量のプランに関しては、まさに“格安”といえるレベルにまでになった。一方で、単に価格を下げるだけでは、ただの消耗戦になってしまう。そこに何らかの付加価値をつけ、ARPUを上げていくことは、MVNOだけでなく、ユーザーにとってもプラスになるはずだ。
こうした状況をにらみ、格安でもプレミアムでもない、「第三極」を目指すMVNOが増えている。楽天モバイルも、その有力な1社だ。インタビューからは、もともとあった知名度の高さを生かしつつも、端末やサービスを地道にそろえてきたことがうかがえる。ネットで低価格なSIMカードを販売しているだけでは、ここまでの成長はなかっただろう。
ただ、この第三極のポジション争いも、徐々に激化している。立ち位置的にライバルといえそうなのが、Y!mobileやUQ mobileだ。この2ブランドには、既にiPhoneもある。ここに楽天モバイルが対抗するには、店舗数を増やしつつ、魅力的な端末をそろえ、サービスを強化していく必要がある。ある意味、これまでやってきた施策の延長線上にあることだが、その手綱を緩めないことが重要になりそうだ。
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